《MUMEI》 悪魔の拷問ライムは目を覚ました。 「あっ…」 覚悟はしていたが、十字型に手足を固定されていた。白のビキニは脱がされていない。 (この程度のベルトなら簡単に切れる) しかし慎重になる必要があった。天井が高い、広い部屋。まるで水族館のような場所だが、剣を持った兵士があちこちにいる。 ライムはゆっくりと部屋全体を見渡した。おそらく100人はいるだろう。 それに手足のベルトを切って逃げても、またオクトパエスに捕まったら、今度こそ許してはくれない。 真正面のドアが開いた。総大将の惨状愚魔が姿を見せた。 「久しぶりだなライム」 ライムは一瞬焦ったが、笑顔で応じた。 「なるほど。あたしを簡単に生け捕るとは大したものだと感心したけど、こんな大物が指揮を執っていたとはね」 「大物?」 言われたことがない。惨状愚魔は喜んだ。 「ライム。お世辞が上手くなったな。少しは成長したか?」 「惨状愚魔こそ、随分出世したみたいね」 「ライム。なかなかいい度胸してるじゃないか」 「何言ってんの。膝はガクガク震えてるし、心臓が止まりそうよ」 二人の距離はまだ遠い。 「ライム。俺と組まないか」 「……」 「家来になれとは言わん。パートナーだ。悪い話ではないだろう。なあ」 「悪いけど答えはノーよ」 「なら拷問だぞ。いいのか?」 ライムは身構えた。 「おまえが小悪魔になったら仕事がやりやすい。ライムに誘惑されて落ちない男はいない」 「断る!」 ライムの強い声が響く。だが惨状愚魔はしつこい。 「拷問されて屈服するよりも、今無傷で俺の軍門に降ったほうがおりこうさんのすることだぞ」 「なめんな!」ライムは怒鳴った。 惨状愚魔は腕組みをすると、ほくそ笑む。 「ライム。沢村翔が心配じゃないか?」 「翔に手を出したら許さない」 「自分が万事休すのくせに何を言ってる」 ライムと惨状愚魔は睨み合った。 「今頃沢村翔は、エリカに骨抜きにされてるだろう」 「何をした!」ライムが怖い顔で怒る。 「安心しろ。手荒なまねはしない。美女攻めだ」 「美女攻め?」 「誘惑だよ。沢村翔は女に甘い。エリカの魅惑的なボディに迫られて、虜になってるかもよ」 ライムは真っ赤な顔をしてなじった。 「そんなわけない。美女攻めで落ちるような男なら、見捨てるわ!」 「はっはっは。惚れたかライム?」 「バカバカしい」 「妬いてるのか?」 「くだらない」 「図星かライム?」 惨状愚魔のしつこさに、ライムは激怒した。 「黙れ愚か者!」 「お、おろ…」 「貴様のような小物。あたしの敵じゃない。下がれ!」 惨状愚魔の顔色が変わる。 「舐めてんのかテメー」 惨状は近くの兵士に告げた。 「おい。あの4人を呼べ」 「もう、ですか?」兵士は青ざめた。 「いいから呼べ!」 ライムの近くに、こつ然と現れた4人の悪鬼。なぜか指と爪が長い。 「何こいつらは?」 強気の姿勢を崩さないライムに、惨状愚魔は勝ち誇った。 「ライムがいちばん恐れている相手だ」 「だれよ?」 「業師だ」 「わざし?」 「女体のメカニズムを知り尽くしている業師だよ。ライム」 ライムは唇を結んで悪鬼を見すえると、冷たい声で凄む。 「あたしに指一本触れてみなさい。首を吹っ飛ばすわよ」 しかし、惨状と4人の業師は、なぜかゲラゲラ笑った。 「何を笑ってるの。あたしは本気よ」 惨状愚魔が笑顔で言う。 「ライム。大事なことを言い忘れてた。おまえが寝ている間に特殊な注射を打っちゃった」 「注射?」 「今のおまえは、能力ゼロだ」 「え?」 「つまり、ただの人間の女の子と変わりないってこと」 ライムはベルトを切ろうとした。切れない。 「そんなバカな」 蒼白になるライムは業師に囲まれた。彼女は泣き顔で手足に力を入れるが無駄な抵抗だ。 「近寄るな!」 「ひひひひひ」 まずい。ライムは腰が引けた。 「待ちなさいよ!」 前へ |次へ |
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