《MUMEI》
水を得た魚
「お兄さん、もう一声!」

「え〜?」

「お・ね・が・い」

「しょうがないな〜」

「やった!」


(すごいな…)


志貴はその容姿と巧みな話術で、当たり前のように値切っていた。


「ほら、美咲と真理子も!」

「うん」

「ありがとう、志貴ちゃん」


(本当に、すごいな)


志貴は一晩で、瀬川と渡辺と打ち解けていた。


元々グループのメンバーになった時から仲は良かったが、三人は完全に友達になっていた。


「え〜と、次は…」


(まだあるのか…)


買い物リストを書いたメモを見る志貴の後ろを、俺達はついていった。


俺と真司は海産物を買う予定は無く


他のメンバーの買い物と郵送手続きも既に終わっていた。


「あそこは手強そうね…」


呟いた志貴の視線の先にあったのは


中年女性が仕切るカニの店


女の子達の笑顔に負けそうになる男性を、怒鳴りつけている声がここまで聞こえてきていた。


(さすがの志貴もあれは無理かな)


そんな志貴と、目が合った。


志貴は、俺を見てニッコリ微笑むと、店に向かった。

…何故か、俺と真司の手を掴んだ状態で。

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