《MUMEI》

「皆、桜介君の先輩かい?」


「……はい。」

桜介が瞳子さんのお父さんと付き合いが長いからか差し障りのない俺達の話しをする。
品定めされてるようでいたたまれない。


「なあ、悪いんだけど俺お腹空いちゃった……昼持ってくの忘れてさあ。」

なんだ、『七生』の図々しさは!こんなやつなのか七生って……


「まあ、
それはいけませんね。急いで持ってこさせます。」

瞳子さんが一生懸命、七生の我が儘に応えようとしている、思わずそこまでしなくてもいいのにと止めてしまいたくなった。


「七生君は亭主関白だなあ、男はこれくらいどっしり構えていないとな。私も松代家をもり立てた頃は妻に靴下を履かせていたよ。」

どうやら、瞳子さんのお父さんは七生のことが気に入っているようだ……。
料理はそれはそれは豪勢で、身の詰まった海産物のゼリー寄せの前菜が出てきた時点で乙矢の手元を複写するのに集中した。


「葉っぱ苦い。」

七生は器用に前菜の野菜だけを除け始めた。


「ふふ、
七生さんたら緑の野菜が苦手なんですね。」

新しい発見とばかりに瞳子さんは七生に熱い視線を送っている。


「瞳子、メモだメモ!」

お父さんは豪快に笑いながらテーブルに書く仕種をする。


「おかわりー。」

七生は早々と野菜以外の物を平らげてしまっていた、俺はテーブルマナーに夢中で全然食が進まない。
まだは半分残っている。
七生、もう少しゆっくり食べれないかな……


「なあ、おかわりまだ〜?」

……イラッ。

間延びした七生の声を聞いて足が勝手に七生のふくらはぎを小突いていた。
それに反応して七生は俺を見る。


「――――七生君、水でも飲んだらどうかな、柑橘系の酸味があってとても美味しいよ?」


「……それ、ちょうだい。」

そういえば、七生をちゃんと見たのは初めてだ。意識し始めると急に頭が真っ白になる。


「……えっ、……あ、う」

呂律が回らずしどろもどろだ。


「やった、貰った。」

俺の食べかけのゼリー寄せを一口で平らげた。


「七生さん、私のも……」

瞳子さんが進んで自分の皿を差し出す。


「私のも、いかがかな。」

瞳子さんのお父さんまで出してくれる。


「でも、同じの飽き……」

飽きたなんて言わせないからな。
爪先が七生のふくらはぎを蹴る。

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