《MUMEI》

「まあアイク様もいらっしゃったことですし、そろそろ練習を始めませんか?」

司会役と思われる教員が口を開く。アイクも同じ気持ちだったので同意する。教頭が「謝罪もせんとは……」などと呟いていたが、アイクはそもそも謝罪など求めていない。

(……やっぱり……そうなのか……)

一瞬悲しそうな顔をしたアイクに気付いたのはガリアだけだった。

ガリアは知っていて敢えて触れずに話を進める。そんなガリアにアイクも気付いており、心の中で感謝していた。

「それでは始めるとしよう。アイク君、ステージの横の控え室に入ってくれ。そして司会の彼女が君の名前を呼んだらステージの中心にある拡声器のところまで行ってくれ。後は言われずとも君なら解るであろう。」

「ええ、勿論。それでは。」

そう言うとアイクは、特待生の証である装飾の施された純白のマントを翻して控え室に向かった。その時彼は微笑みながら流し目をし、かつ割と勢いをつけて振り向いた為マントがふあっと持ち上がった。そんな気障っぽい動作も彼が行うと極自然で非常に格好良く見えてしまう。

ガリアは「いつ何をしても絵になる」と愉快そうに笑い、教頭は「女性だったらなぁ……」と哀しげにアイクの背中を見送り、司会の女性教員は「ステキ……」と目をハートにしていた。

ちなみに教頭は未だ彼女いない歴=年齢で、御年59歳である。

…………健闘を祈る。

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