《MUMEI》

練習は滞りなく終わったが、教頭と司会がむやみやたらと褒め称えてくることにアイクは困って苦笑を漏らす。そこには若干の悲しみが含まれており、気付くのは勿論ガリアのみだ。

「こんな朝早くから疲れただろう。控え室で休むといい。」

アイクを褒めていた2人は『疲れ』という単語に過敏に反応、アイクへの謝罪を始めた。

(折角助け舟を出してもらったのにすぐ沈没してしまったな……)

何度「大丈夫」と言っても謝罪を止めない2人に閉口していたアイクだが、再度助け舟を出してくれたガリアのおかげで事なきを得た。

そして現在、控え室のソファに腰掛けている。近くにクッションもあったので抱き締めて顔を埋めてみると、甘く優しい香りが全身に染み渡った。何とも言えず心地良いそれは眠気を誘うのに十分な効果を持っていた。アイクは、次第に深く暖かい闇へと沈んでいく――

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