《MUMEI》
居酒屋ふりむん
本部という町は沖縄本島の北部にある漁港で名護市から十数キロ北にある。さらに海岸線を北上すると海洋博公園があり本部港はかつおの水揚げで有名な港で山間部には桜で有名な本島で1番標高が高い八重岳がある。近年は、本土から移住してきたヤマトンチュ(日本人)が多く住み始めた町でもあった。居酒屋ふりむんはその本部港から近い繁華街の中にあった。”ふりむん”とは、標準語で馬鹿者という意味で店主である儀間自身が馬鹿者だからきっと馬鹿者たちのたまり場になるだろうと名付けられた。その名の通りふりむんの集まる店になりその馴染み客だけで持っている店だった。店主の儀間はこの本部町の出身であったが若い頃に何年か本土に働きに出た事があり、しばらく後にフラッと島に帰って来て今の店を開いた。本土で何をしていたかは定かではなく一説によると、有名な芸能人のマネージャーをしていたと言う説もあれば、機動隊に所属していてオーム真理教のサティアンに突入した経験があるとか、はたまたミュージシャンとして活動していた経験があってCDを見たとか見ないとかという噂が飛び交っていた事もあった。とにかくそれらどの話にも確証はなかった。店の名前通りふりむんたちのフラー(馬鹿)話だった。
一人目のふりむんが現れたのはまだ開店前の夕方だった。そのふりむんの名前は新垣善明と言った。彼は漁師で昼過ぎには毎日仕事が終わりいつも体を持て余しているのでほぼ毎日夕方になると姿を現した。この日も今日上がったばかりの魚をバケツに一杯持って現れた。
「あい、今日はグルクンが採れたからさ唐揚げにしたら美味しいはずよ。たくさんあるから安く出したらいいよ。」
カウンターにバケツを置くと山盛りの魚が何匹か零れて落ちた。
「なんで安く売るか、新鮮だから高く売ったらいいさ、なんでも新鮮なのは高いからいいんじゃない?」
零れた魚を拾いながらマスターが平然とした顔で言った。
「しっかりしてるよなあマスターは、だけど元手はただなんだからさ、少しはお客さんにサービスしてもいいんじゃない?」
「儲かってればいくらでもサービスするよ、だけどようちのお客さんはアンタみたいにお金の代わりに現物支給で飲ませてくれとかさ、サンシン弾くから飲ませてくれとかよ、揚げ句の果てにはよ母ちゃんを貸すから飲ませてくれと本気で言う客までいるから大変さね。現金で酒は飲みなさいって言いたいよ。」
確かにふりむんの客はみんな変わっていた。いい奴なんだけど変わってるのではなく、変わってるけどいい奴たち、同じように聞こえるがつまり底抜けに明るくいい奴なのであった。ふりむんはそんな変わり者のたまり場だった。
「まあいいじゃない、店は客が来てくれるからあるんだからさ、贅沢言ったら罰があたるよ。」
そう言って新垣は泡盛を一杯催促した。並々と注がれた泡盛を新垣は美味しそうに舐めるようにして飲んだ。
「あー本当に泡盛は美味しいねぇー、いつ飲んでも泡盛は最高さね。」
「いつ飲んでもってアンタ、昨日も同じ事言ってたくさん飲んでたさぁ、」
呆れた顔でマスターがそう言うと何を思ったのか新垣は杯をカウンターに置いて手を合わせて拝んだ。
「いやあ、僕が泡盛を好きではなくて泡盛が僕を好きな訳よ、だから仕方ないでしょうに、嫌い嫌いしたら可哀相さね、このお陰で毎日漁に出られて楽しく暮らせる訳よ、分かる?泡盛の無い人生は僕には考えられん訳よ。」
そう言って旨そうに泡盛を飲み干すとお代わりを頼んだ。

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