《MUMEI》

「今日、泊まってけよ。皆帰り遅くなるからさ。」

莉子がはにかむように笑うのが可愛くて……下心がつい、出てしまう。


「………………うん」

暫く考えてお許しが出た。


「あ、まつりだ。まつり〜!」

変装してるが、あれはどう見ても高遠……そして棗と……誰、あのデカイの。

「お兄さんと……」

俺達に向かってデカイ集団が駆けてくる、莉子も戸惑いを隠せない。


「叔父です。」

一番デカイ、一番訳分からないのが即答した。俺はこんな叔父知らない……。


「わあー、凄い、何をしていらっしゃるんですか?」

ジャージなのだが、金髪で彫りの深い眼窩が大きめのサングラスの隙間から僅かに見える。高遠の影さえ薄くなる(意図的に目立たないようにしているが)この貫禄、ただ者でないことは確かだ。
また、莉子のミーハーが出てきた。



「あ、はい。こういう店の者です。十年後にご指名下さいね、一杯分ご馳走しますから。」

莉子が丁寧に手渡された名刺で納得してしまった。
この男がホストを名乗るのでホストにしか見えなくなってしまう。
ホストの先入観さえ無ければ大体の華やかな仕事を言われれば信じた、それくらいの容姿を持っている男だった。

しかも、貰った名刺を握りしめたまま莉子はデカイ男にくぎづけになっている、自分の彼女が他の男に見惚れてるのは気持ち良いものではない。


「……彼女ちゃん、可愛いね。」

高遠が莉子を褒めた。プレゼントで仲直りを提案したのは実は高遠なのだ。
自分が計画した結果が気になって見に来たというのが本心だろう。


「そうなのよ、茉理にはもったいないのよね。」

棗、一言多い。


「やだ、そんなんじゃないですよ!」

莉子は誉めそやされて首を振りながら力いっぱい否定した。


「うん、目がくりっとしていて可愛い。」

莉子の顔をデカイ男が覗き込む。


「は、恥ずかしい!」

咄嗟に莉子は顔を隠した。


「俺は?」

高遠が突然、割り込んで来た。


「んー、可愛い。」

莉子と同じように顔を覗き込んだ。


「私は?」

棗も便乗した。


「うん、可愛いね。」

一連の動作として顔を覗き込む、そしてそのままの角度から俺の顔も覗かれた。
間近だと予想を超える美貌だ、神様は何故平等に人間を作らなかったのだろうか、匂いまでカッコイイ。


「……鎖骨可愛い。」

サングラスの隙間から目が合うと、寒気にも似た鳥肌が立った。
鎖骨、何故鎖骨……襟の広く開いたシャツを着ていたことを無性に意識してしまう。
別に女性じゃないんだから胸元を気にする必要もないのに。


「茉理って私の店のママのお気になのよ。
細身なのに骨太なのがいいんですって、鎖骨なんかむしゃぶりつきたいって言ってたわよ。」

棗の口から余計な情報が漏洩する。


「まー君て、そういえば昔からそういうラブレターとか貰ってたよね……」

……莉子は黙っておいてくれ。


「隙が有りそうだもんね。奥手そうだし。」

……高遠も黙っておいてくれ。


「そうなんですよ、本人は無自覚だから余計に始末が悪いんです。私からアプローチしなきゃ来てくれないし。」

莉子、そんなこと普段思っていたなんて!


「我が弟ながら不甲斐無いわね。」

兄のくせにウルセー!


「やっぱり、多少強引でもリードして欲しいよね。優しさも欲しいけど、強さも兼ね備えて欲しいっていう願望?」

高遠は違和感無く溶け込んでいるし。


  「「分かるー!」」

棗と莉子がシンクロした。


「でも、それはやっぱり普段から身近に居られる相手だからだよね。中々会えないで余裕見せ付けられると自分ばっかり一方通行に思えて虚しくなる、だから狂うくらい目茶苦茶にされたいって思ってしまう。」

高遠、意味深発言。
そして耳へ髪をかき上げる仕種がぞっとさせる綺麗さだ。


「光ちゃんて実はドM?」

棗に同意。


「さあどうでしょう?」

にっこり笑窪を作る高遠の質問のかわし方は熟練されている。


「どうでっしゃっろ?」

叔父が高遠に目配せする。叔父、何処の地方の人だ?

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