《MUMEI》
暗殺指令
惨状愚魔は土下座して首領たちを待った。
やがて太鼓の音が鳴り響く。
オールダイパンが堂々と入場してきた。
「一同の者。おもてを上げい!」
「ははっ」惨状は顔を上げた。
「惨状。くるしゅうある。もっと遠くへ下がれ」
「申し訳ございません」
惨状はまた土下座すると、下がろうとした。
「冗談じゃい」
他化愚魔が厳しい口調で聞く。
「惨状愚魔。強飛ごときは一刀両断に叩き斬ると豪語したが、素手で秒殺された。しくじったな」
「誠に申し訳ございません」
無限煙愚魔も怖い顔で口を開いた。
「惨状愚魔。やはり強飛は強い。そこで愚魔軍最強の琴愚魔と岩鬼愚魔をやろう」
「ありがたき幸せ」惨状は頭を下げた。
オールダイパンが語る。
「いわき愚魔には特別指令を出しておる」
「特別指令にございますか」
「沢村翔の暗殺じゃい」
「暗殺」惨状は驚いた。
「沢村が作家になったら、何を書くかわからない。無名のうちに消すのがセオリーじゃい」
「はあ…」
「そのときに必ず邪魔するであろう強飛とライムは、こと愚魔が押さえる」
惨状は勝算が見えて、明るい笑顔に変わった。
「それでは琴愚魔殿と岩鬼愚魔殿をお借りします」
「よろしい。ゆけ!」
早朝。
ライムと沢村翔は、公園のベンチにいた。
「翔君。風景は想像で書くよりも、実際に目で見て文章でスケッチするといいよ」
「なるほど」
翔はノートにペンを走らせた。画家が風景を見てスケッチするように、翔は文でスケッチしていった。
「ライムの個人授業はあと1年受けたい」
「何言ってるの」
朝と昼では景色が違う。夜はもちろん、まるで違う絵になる。
草木でも花でも、実際に見たままを描けば、リアリティのある風景描写になる。
「翔君、喉乾いた?」
「うん」
「買ってくるね」
ノートにスケッチしていた翔だが、手を止めると、愛しのライムの後ろ姿を見た。
白いTシャツに白のショートパンツ。惜しみなく綺麗な脚を披露する。
裸足に白のスニーカー。
金髪に近い明るい茶髪。よく似合う短めの髪。どこから見ても19歳くらいの女の子だ。
「人間に、なる気はないのか。ライム」
口に出して呟いてみた。死ぬほど好きでたまらない。
ライムは自動販売機が見つからず、体育館の下の駐車場まで来た。きょうは不良少年はいないのでホッとした。
ところが。
「ライムか?」
「え?」
スキンヘッドの巨漢が現れた。頭突きの名手・琴愚魔だ。
ライムは構えた。
「何しに来た!」
「強飛はどこだ?」
「強飛に何の用?」
「ライム。おまえを素っ裸にして犯せば、強飛は現れるだろうな」
「何だと!」
ライムは激怒した。すぐに強飛が現れた。
「強飛」
「ライムは下がってろ」
「今回は登場が早いのね」
「いつもだ」
強飛が前に出る。琴愚魔も構えた。
ベンチでは、ライムが遅いので翔は心配していた。探しに行こうとすると、2メートル近い大男がベンチにすわった。
「ん?」
男はタバコを口に加えると、ライターを探した。
「ない。忘れちまったか」
独り言を無視していると、男は翔に言った。
「おい、火あるか?」
「火?」
「ライターだよ、使えねえ野郎だなあ」
翔はライムの言葉を思い出した。悪鬼が身近な人間の身に入り、神経を逆撫でして心の中の悪魔を呼び覚ます。
「その手には乗らないぞ」翔が笑った。
「はあ?」
「貴様は、悪鬼だろ?」
すると、男は目を丸くして翔を見た。かなり驚いている。翔は不審に思った。
「なぜ見破った?」
「え?」
今度は翔のほうが驚いた。まさか本物。
「本物の悪魔か?」
「…そうだ」
「何しに来た?」
「おまえを殺しに来た」
一瞬の静寂。
岩鬼が動いた。しかし翔が先に顔面めがけて右ジャブ。首相撲から膝蹴りを顎に連打!
「じゃかしい!」
胸元にトーキック一閃!
「あっ…」
一発で終わった。
「ら、ライム……」

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