《MUMEI》

その時、菖蒲の間の襖がスー…っと開いた。



一人の大男が、燗された日本酒の徳利を盆に乗せて入ってくる…。



大男は花札を並べた座布団の横に膝まづき、兼松の傍らに盆を置いた。



大男は桜庭だった…。




『…お待たせしました…。』


桜庭は初めて兼松の前で口を開く…。



その低い声に兼松は、思わずギクリとなった。





どこかで聞き覚えのある声だった…。



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