《MUMEI》
居酒屋ふりむん
「ところで気を失ったお兄さんはどうした?まだ眠ったまま?」
ちょうどその時に奥の部屋から男が顔を出した。「あい、兄さん生き返って来たんだね、良かったさあ、マスターあんた殺人犯にならで済んだんだよ、良かったさあ、」
マスターはカウンター越しに男の顔を見た。男は無表情で魂が抜けたようにボンヤリと立ったままだった。
「あい青年、ボゥーと立ってないでこっちに来て座りなさい。生き返ったんだからお祝いしましょうねぇー。」
新垣はコップを取ると泡盛を注いだ。それを男に手渡すと男は言われるままに酒を持って新垣の隣りに座った。
「なんで暗い顔してる訳?とにかく無事だったんだからさもっと明るい顔をしないとダメさ、生きてればきっといい事あるはずだからさ、ハイハイまずは一杯飲みなさい。」
並々と注がれた泡盛を受け取って口を付けようとするのを新垣がじっと見ていた。
「兄さん本当に大丈夫ね?アンタは酒は飲めるの?泡盛を飲んだ事あるの?」
「飲めるかどうか分からないけど、」
無表情なまま手にした杯に口を付けた。
「飲んだことなんかなくてもなんも問題ないさあ、めでたいんだからクィーと飲んだほうがいいよ。気付けにもなるから元気が出るはずだよ。」
マスターは確かに気付けにはなるかも知れない、記憶を無くしているのは外傷的な問題は無いと診断された訳だから精神的な問題かも知れないと思って見ていた。
「酒はマブイを清めてくれるから飲んだらいいはず、ちょっとゆっくり飲んでみてごらん。」
受け取った杯を素直に口元に運ぶと一気に飲んだ。
「ぶぅっふあー、」
いきなり含んだ酒を吹き出した。
「あいやななな、勿体ないさあ、まったく酒がダメなんかね。」
吹き出した泡盛がテーブルまで飛んで来た。泡盛でもアルコール度数が40度以上ある古酒は舐めるように飲めば口あたり良いが一息に流し込むと喉が焼けるように熱くなる。
「ゆっくり飲みなさいと言ったでしょう、一気に飲んだら誰でもむせるよ、あーあ、勿体ないさあ。」
テーブルを拭きながらマスターはもう一杯注いだ。
「今度はゆっくり舐めるようにだよ。分かった?ほら飲んで、」
男は今度は言われるように杯に口を付けてゆっくりと舐めるように飲み始めた。最初は強い酒に慣れないせいか顔をしかめていたが古酒の滑らかな飲み心地が口に合ったらしく杯を飲み干す頃には表情も和やかになり始めていた。男は飲み干した杯をテーブルに置くと満足そうな顔をして大きく息を飲んだ。
「プッファアー、なんかいい気持ちだなあー。」泡盛のせいで緊張感も緩んだらしくすっかりリラックスした柔らかな表情に変わっていた。
「あい、いくら泡盛が強いからってちょっと酔いが回るのが早やすぎるんじゃないかね?」
確かに表情だけではなく男は骨の無いクラゲのようにクニャクニャし始めた。しばらくすると焦点も定まらず遂には腰が抜けたかのようにして座敷席にへたり込んでしまった。
「あいやななな、また気を失ってしまったみたいさ、やっぱり飲ませんほうがよかったかね。」
心配になったマスターが側に近寄って顔を覗き込んだ。すると男は目を半開きにし口元が緩んでまるで魂が抜けたみたいになっていた。マスターが軽く揺すって起こそうとしたがもしかして後遺症が出たのではないかという気がしたので心配になりゆっくりと首に腕を回して抱き起こそうとした。すると新垣がそれを制した。
「動かさないほうがええんじゃない?だからよ、これはよきっとマブイを落としてるはずだよ。、」
「マブイを?」
新垣が男の瞼に指先を充てると半開きの目をさらにひんむいた。すると瞳孔はやや開き気味だった。マスターは親戚の子供がバイク事故で気を失って病院で検査を受けたがレントゲンにも異常はないのに医者がマブイを落としたと診断したのを思い出した。
「マブイを落としてるならユタを呼ばんといかんでしょ、」
新垣は大きくうなづいた。

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