《MUMEI》 天使の剣体育館下の駐車場では、強飛と琴愚魔が睨み合う。 そこへ岩鬼愚魔がこつ然と現れた。 「岩鬼愚魔!」 ライムと強飛は同時に言った。スーパートーキックの岩鬼愚魔といえば有名だ。 ひと蹴りで殺す暗殺者。そんな男がなぜここにいるのか。 岩鬼が平然と言った。 「琴愚魔。沢村翔を取ったぞ」 「よし。帰ろう」 「え?」 ライムは髪を逆立てた。 「翔!」 ライムはベンチめがけてダッシュ。岩鬼愚魔が遮る。ライムの肩に手を伸ばした瞬間、光の筋が見えた。 「ぎゃあああ!」 ライムが剣を握っている。岩鬼愚魔は顔を切られてうずくまった。 「ライム行け」 強飛に言われ、ライムは剣をしまうと、走った。 琴愚魔が強飛に襲いかかる。ヘッドバットを狙う。しかし強飛の拳が速かった。 メガトンパンチ! 「がっ…」 体が伸びる。そこをすかさずボディブロー。屈んだところをアッパーカット! ドサッと倒れた。琴愚魔は動かない。 (嘘だろ) 隠れて見ていた惨状愚魔が焦る。 岩鬼が立ち上がった。顔が血まみれだ。 「おのれ、よくも」 厚い胸板を蹴る。強飛は交わす。 「あの小娘。捕まえたら蹴りまくってやる」 「心配しなくてもその前におまえが死ぬ」 「黙れ!」 岩鬼が突進。強飛はカウンターの顔面キック! 吹っ飛ぶ。 「テメー!」 岩鬼愚魔が強飛の腕を掴んでトーキック。ガードした。今度は強飛が岩鬼愚魔の胸元に膝蹴り。 「うっ…」 岩鬼が膝をつく。強飛が叫んだ。 「トーキックっていうのはなあ。こうやってやるんだ!」 顎を蹴り上げる。 「スーパートーキック!」 「あああ!」 岩鬼愚魔の顎が砕け散った。 (強過ぎる!) 「あっ…」 気づかれたか。 「惨状!」 「ヤバい!」 惨状愚魔は馬にまたがり逃げ出した。ところが強飛も馬上の人となって大矛を振り上げる。 「待て!」 「ひやあ!」 「ほうら!」 大矛が唸る。強飛は真後ろ。惨状は生きた心地がしない。 「くたばれ!」 横にないだ。惨状の冠が飛ぶ。 「助けてくれ!」 兵士が無我夢中で強飛を止める。 「どーけー!」 ベンチでは。 「翔!」 うつ伏せで倒れていた翔が目を開けた。 「ライム…」 「喋らないほうがいい。今救急車来るから」 「ライム…」 「喋らないほうがいいって」 「来世は…」 「え?」 「人間同士で、出会いたい」 そこまで言うと、目を閉じた。 「翔君?」 翔は何も答えない。 「翔!」 病院。 廊下を歩く白のスニーカーが見える。 白一色のファッションに身を包んだライム。6人部屋の病室に入ると、窓際のベッドにドリンクを持っていった。 「はい翔君」 「ありがとう」 翔はライムと目を合わせない。 「ライム」 「何タフガイさん」 「嫌味か?」 「違うよ。普通は死ぬのにこの軽傷。さすがはキックボクサーね」 翔は小声で話す。 「死ぬ間際にさあ」 「死んでないじゃない」 「変なこと言ったかと思って」 ライムは翔の手を握った。 「だから喋らないほうがいいって言ったのに。あたしの言うこと聞かないからだよ」 俯く翔。ライムは両肩を触ると、優しく倒した。 「寝てなさい」 「ライム」 「何?」 「仇討ちなんて考えちゃダメだぞ」 ライムは即答しない。 「大丈夫よ」 「オレは無事だったんだから、絶対やめてくれ。頼む」 ライムは笑みを浮かべた。 「しないわよ。大丈夫」 翔は直感した。行こうとしている。 「ライム。どこにも行かせない」 「約束するわ。どこにも行かないって」 「嘘だ。オレにはわかる」 ライムは困った顔をすると、もう一度、翔の手を両手で握った。 「あたしのこと。心配してくれるのね。ならば本当のことを言うわ。行こうと思ったけど、行くのはやめた」 「ホントか?」 「本当よ」 病院を出た。ライムの目の色が変わる。 (絶対に許さない) ライムは、天使の剣を握った。 前へ |次へ |
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