《MUMEI》
愛は会社を救う(76)
「香りで二人の関係を確信した、と」
「ええ。それで…」
そこまで言って由香里は、一度言葉を飲み込んだ。
「それで私も、同じ香りを身に付けたい、同じ関係になりたいって、そう思うようになったんです」
五感の中で、嗅覚ほど本能に直結している感覚はない。
同じ香りを身に付けたいという願望は、すなわち、最も本能に忠実な欲望の表れと言い換えることができるだろう。
「つまりあなたは、山下チーフを…抱いてみたいと?」
ストレート過ぎる言い回しに、由香里が頬を赤らめる。
そして思わず漏らしたのは、意味ありげな熱い吐息だった。
黒い瞳が、にわかに妖しい潤みを増す。
「スタイルも、年齢も、性格も、何もかもが"理想の女性"だったんです。あんな素敵な女性を、一度でいいから自分の…自分の思うままにしてみたい。私の頭の中は、そんな妄想で一杯になっていきました」

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫