《MUMEI》
愛は会社を救う(77)
ゆっくりとこちらに歩み寄りながら、由香里が言葉を続ける。
「それから、必死で考えました。山下さんに近付くにはどうしたらいいか、気を引くにはどうしたらいいかを。…でも私は、青地さんのように優秀じゃないし、結局、声を掛けていただくことさえできませんでした」
「そこに私が現れた、というわけですね」
「ええ」
間近に向き合う由香里の顔は、清楚な中にも艶麗な気品を醸し出していた。
たった数ヶ月で、よくもここまで変貌を遂げたものだ。
いや、洗練されたのは、見た目だけではない。
内面から湧き出るオーラのような輝きが、日々眩しさを増しているのだ。
(これでは、山下仁美の目に留まるのも無理はないな)
私は妙な感心を覚えながら、密かに自嘲した。
そんな彼女の変貌には、間違いなく自分も一枚噛んでいるからだ。

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