《MUMEI》
居酒屋ふりむん
「この辺だとユタは何処にいるかね?」
マスターが真面目な顔をして新垣に聞いた。
「酒屋の与那覇んちの親戚の叔母さんがユタだったはず、電話して聞いてみようかね、」
そう言って携帯で検索をし始めた。マスターは首に回した腕を静かに元に戻して座布団を頭の下に入れた。
「そうかマブイを落としたんだねー、忘れてたさあ、もっと早く気が付いてればもっと早く気が付いてれば良かったのに、だったら医者じゃなくて、ユタに頼まんとならんよね、」
電話口で話す新垣が指で丸いサインを作って携帯を切った。
「大丈夫って、多分もうすぐ帰るってさ、今日はは那覇まで用事で行ってたみたいだね、」
マスターはそれを聞いて安心した顔をした。
「あい、那覇からも呼ばれるならデージたいしたもんさ、本物だよ。」
「那覇には受験で東京から帰って来た孫を迎えに空港まで行ったらしいよ。受かるように祈ったから受からんと立場ない訳さ、だからよ心配でさ、迎えに行ったんじゃない?」
マスターは結果をそわそわ心配するユタに不信を感じながら首を傾げた。そもそもユタ信仰とは土着の神を崇めつつ生活風土や習慣、さらには先祖霊や悪霊、四柱推命といった中国古来の占星術も入り交じった独特の沖縄ならではのチャンプルー文化に基づいた習わしである。沖縄が古く琉球だった大昔からあって深く民衆の生活に根差し今日に続いている。どの町や村にもひとりや二人のユタが居て近隣の人々の悩みや相談、さらには生き方指南までと広く相談役を受け入れている。試験や資格といったものは無く、ある人はある日突然にお告げがあって目覚めたとか、子供の頃から人と少し変わっていて感受性が高くて例えば人には見えないものが見えたり、聞こえない何かが聞こえたりすると言った能力があったりと、ある意味ちょっと危ない人めいたギリギリの境界線にいる人がユタになる要素があるらしい。だから年齢もマチマチではあるが性別はなぜかしら女の方が多い。これは男の方がいろんな雑念が多いからかも知れないが定かではない。ともあれこの地域には居酒屋ふりむんの常連客の一人である酒屋の息子与那覇の親戚がユタをしている訳でそのユタがもうすぐ来てくれる事に
なった。

結局、店の座敷の隅に座布団を敷いて並べそこに寝かせた。休み前とあってその日はいつもより客入りが多かったが客達は酔っ払った客が寝ているものとばかり思っていた。男の存在はまったく気にもされていなかった。マスターも仕事の忙しさに追われるし、新垣はと言うとすっかり酔いが回って上機嫌でやはり男の存在などすっかりそっちのけでそれどころではなくなっていた。柱時計は12時を回っても店内は酔客たちで騒然としていた。するとそこに新たな客がガラガラと戸を開けて入って来た。その客は店内を見回していた。マスターはカウンターの奥でちょうど客の注文したグルクンの唐揚げを揚げている最中だったので気がつかなかった。
「ごめんなさいね、儀間さんは誰かね?」
声は客達のざわめきに空しく掻き消されマスターには届かなかった。
カウンターの端に座っていた鳶の見習いの金城が辛うじて気付いた。
「オバァ、生憎満員してるみたいよ。また今度来たらいいさ、」
そう答えるとその初老の婆さんは金城の裾を引っ張った。
「儀間さんはどの人かね?」
そう問い掛けると金城は首を捻った。金城は最近見習いになったばかりだった。親方にふりむんに連れて来られるようになったのは最近の事だったのでマスターが儀間という名前なのを知らなかった。
「お客さんに儀間さんっておる?」

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