《MUMEI》
一瞬の油断
またしくじってしまった。惨状愚魔はイライラしていた。
そこへ真っ赤なビキニ姿のエリカが通る。
「おい、陣中だぞ。チャラチャラしてんな」
「チャラチャラなんかしてないよ」
「何だと?」
惨状はいきなり短剣を出した。
「生意気な態度を取るな。俺は総大将だぞ」
しかしエリカは小声で呟く。
「強飛に勝てないくせに」
聞こえた。惨状は短剣をエリカのおなかに近づけて聞く。
「今何て言った?」
「危ないなあ!」
エリカは怒りに任せて怒鳴る。
「おなかに刺さったらどうすんのよ!」
完全に舐められている。負け戦が続き、総大将としての威厳は地に落ちたかもしれない。
惨状は殺意の目でエリカに歩み寄った。
まずい。本気で怒らせてしまった。そう察知したエリカは、慌てて壁まで下がった。
「待ってください総大将。冗談ですよ。戯れです」
しかし惨状は短剣を手にゆっくり近づいて来る。
エリカは両手を出して言った。
「ごめんなさい。許してください」
惨状が襲いかかる。
「きゃあ!」
短剣を喉もとに当てられ、エリカは震えた。
「やめて、命だけは」
「舐めてんのか?」
「舐めてません」
「舐めてんのか?」
「舐めてません」
エリカが心底怯えているのを見て、惨状は短剣を離した。
「今度舐めたら承知しねえぞ」
そう凄むと、惨状はその場を去った。エリカは両膝をついて崩れ落ちたが、納得いかない表情だ。
「弱いくせに。何威張ってんのあのバカ」
惨状愚魔はイスにすわり、酒を飲んだ。
兵士が報告に来る。
「総大将。天使ライムが来ました」
「何?」
「天使の剣を持っています」
「何だと」
すると、純白の服に身を包んだライムが、こつ然と現れた。
「わあああ!」
兵士が騒ぐのを見て、惨状は怒鳴った。
「何がわあああだ。やれ!」
険しい表情のライム。天使の剣を下に向け、真っすぐ惨状愚魔のほうへ向かう。
兵士が切りかかる。ライムは円を描くような優雅な動作で剣を動かす。
「わあああ!」
「ダメだあ!」
ライムの剣は傷一つないのに、兵士たちの剣は根元から切れてしまう。
惨状は呟いた。
「受け立ちできねんじゃ勝ち目ねえじゃねえか」
ライムはゆっくり進む。いきなり素早く動いて太い柱を二本斬った。
柱が倒れる。
「逃げろ!」
惨状は蒼白になって叫んだ。
「逃げてどうすんだバカ。あいつを俺に近づけるな!」
しかしライムの大音声が響き渡る。
「狙うは惨状愚魔の首一つ。ほかの者に危害は加えない!」
それを聞いて皆は迷いが出た。
「バカ。たれが助けろ!」
だれも助けない。命を張って総大将を守ろうという側近が皆無というのは哀しい。
「惨状愚魔。潔く勝負しなさい」
「参った」
惨状は剣を捨てて両膝をつき、両手を上げた。
「ふざけるな!」
「ライム殿。家来になる。命だけは助けてくれ」
「貴様なんかが来ても、天界が汚れるだけだ!」
「ライム殿。一度許してあげたことを覚えているか?」
「何!」
「ライム殿が業師に攻められたとき、殺すのはかわいそうだから、許してあげたではないか」
ライムは怒りの表情で惨状の顔面にキック!
「あっ…。顔はやめてくれ。俺も戦士のはしくれだ」
「何が戦士だ。はしくれにもならない!」
また顔を蹴る。惨状がうつ伏せに倒れると、ライムは頭を踏みつけた。
「そこまでするか」
「悔しいなら勝負しなさい」
吹き矢。
「あっ…」
一瞬の出来事だった。物陰に隠れていた兵士が吹き矢を放ち、ライムの首に命中。
体が痺れて言うことを聞かない。思わず天使の剣を落とした。
異変に気づいた兵士たちが一斉に飛びかかる。ライムは無念にも組み伏せられ、縛り上げられてしまった。
「でかしたぞ!」
惨状はいきなり元気になる。
「ライム。よくもやってくれたな」
ボディブロー!
「あああん!」
ライムは気を失ってしまった。
「拷問室に運べ」

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