《MUMEI》

笠松は部屋から傘を失敬すると、大雨降りしきる私鉄の線路沿いを歩きながら、携帯をとり萩原に連絡を入れた。



鶴見一家の組事務所襲撃に加わるのを拒んだ件を一言詫びようか、とぼけて誤魔化そうかと、長いコールの間に迷いがよぎる。



そうこうするうちに電話は繋がった。



『おぅ俺だ…どうだ?


…猪俣は仕留めたのか?…』



結局いつもの様にヘラヘラと笑い振る舞う…。



電話の相手は只黙っているだけだった。



笠松は、その沈黙の意味を萩原の怒りだと感じとった。



失敗したと思ったが、今更神妙な口調に変えたところで、風見鷄と見下されるのは目に見えている。



もはや、怒るなら怒れと開き直って話し続けるしかなかった。

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