《MUMEI》
ご注文は?
「なぁ、山下。お前、悪夢って見る?」

別に信じてもらえなくてもいい。
話して胸のモヤモヤが少しは晴れるなら、それで十分だと思った。

「悪夢?悪夢ねぇ…。いやぁ、ないな。」

「そう…。」

「それがどうかした?」

「あのさ…」

言い掛けて、それは山下の元気な声で遮られた。

「いらっしゃいませ!」

客が来たのだ。

白髪で、しわくちゃの骨張った顔の老婆が一人。


脚が悪いのだろうか。
ヨタヨタと頼りない足取りで店内に入るや、貴士の前にやって来た。

「いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。」

マニュアル通りの接客。
まるで棒読みだ。

貴士は老婆の顔を見る事なく、注文に備えてレジに向かう。

しかし老婆は中々注文をしない。

「ご注文は?」

耳が遠いのかと、少し大きな声で再度聞いてみた。

だがしかし、一向に注文をしない老婆。

その老人独特のリズムの悪さに少し苛立ち始めた時だ。
「おい、貴士…。」

不意に山下に呼ばれた。

その声は何故か震えていた。

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