《MUMEI》
居酒屋ふりむん
金城が親方にお客さんに儀間さんって人はいるかと聞くと親方は店内を見回し首を捻った。
「オバァごめんね、儀間さんてお客さんはおらんみたいだよ。違う店じゃないかね?」
オバァは困った顔をしていたが仕方なく店を出ようとした。マスターはちょうど出来上がったグルクンの唐揚げを座敷席に運ぼうとカウンターから出て来て暖簾を潜って店の外に出て行ったオバァを見た。
「あれ?今オバァが出ていかんかったね?」
マスターが金城に尋ねた。
「人を探しに来たみたいだったけどよ、店の中にはおらんかったみたいだったからさ、他を探してみたらって言ったら出てったみたいさあ、」
マスターは首を傾げた。「飲んだくれて帰って来ないあんたたちみたいな息子を探してるんじゃないかね、まあ親はダメな子供の方が可愛いって言うからね。だけどさ、あんな姿を見たらやっぱり憐れさあね、親はフラ〜息子を持ったら可哀想さね。ところでさ、誰を探しに来たんだろうかね?」
金城は頭を掻きながら今聞いた名前を思い出そうとしていた。
「そうそう儀間さんて、」
金城がそう言うとマスターは一瞬考え込んだ。
「儀間って?どこかで聞いた名前だよ、って儀間は僕の事でしょうが、まったく何言ってるかね、じゃああの婆さんは、」そこまで言うとマスターは慌てて店の外に飛び出した。婆さんを追い掛けて通りに飛び出して姿を探したが見当たらなかった。
「あいやもう何処にもいないよ、あの年だったらそんなに早く歩けないのにやっぱりユタだからかね?不思議だね、」
独り言を言いながら店の前まで戻って来て店に入ろうとしたらユタの婆さんは店先に積んであるビールケースに座って煙草をふかしていた。
「お客さん今、満員だよ。」
ユタの婆さんがニンマリと笑いながらマスターに声を掛けた。
「あいやな、あんたが与那覇さんの親戚の?」
婆さんはニコッと笑ってうなづいた。拍子抜けした顔をして苦笑いをしたマスターは煙草を吸い終えるのを待ってお婆さんを店の中に連れて入った。
店の中は相変わらず騒然としていた。マスターが婆さんの手を引いて入ると客達は何事が起きたのかと不思議そうな顔をして黙って二人を見ていた。
「あい、マスターよ。ホステスさんにしては少し年が行き過ぎてるんじゃないの?」
上機嫌で冗談を言った新垣はすっかりデニーの存在を忘れていた。
「若けりゃいいってもんでもないさ。だったら二十歳の娘が四人いると思ったらいいさあ〜。」
しゃあしゃあと切り返す婆さんに新垣は返す言葉を無くしていた。。
「あんたが与那覇んちの親戚のユタの婆さんね?」
婆さんはニコッとうなづいた。
「オバァはいくつね?」老いてるのに大丈夫かと不安になった新垣が聞いた。。
「わんの歳は468歳さ。まあもっともそれは前世からの話だけどさ、現世なら今年で89歳になるよ。」
笑い声が店内に広がった。
デニーの存在をすっかり忘れていた新垣がその時婆さんがユタだと気が付いた。
「あんたが与那覇んちの親戚のユタの婆さんね?」

「あれれユタの婆さんなんかに何の用事があるの?それもこんな時間だのに、」
鳶の親方が不思議そうな顔をして二人を見ていた。騒然としていた店内が静かになった。マスターがまったく存在を忘れていた男の寝ている側にユタの婆さんを案内すると寝たときのままの体制で変わらないままの男が居た。
「この人なんだけどさ、こいつがさ、マブイを落としたんじゃないかと言うもんだからさ、見て貰えんかね?」
ユタのオバァはゆっくりと靴を脱ぎながら座敷に上がって座り込んだ。
「あー疲れたびん、はいさ一日歩くと足が疲れて棒みたいになるさ、こんなさ、パンパンに張ってるよ。」
オバァはふくらはぎを揉み始め気持ち良さそうな顔をした。
「あのうオバァよ」
マスターが声を掛けてもふくらはぎを摩って気持ち良さそうに唸るだけだった。

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