《MUMEI》
後悔ってわけじゃないけど
「ちょい待ち雄太!」
「ひっ!!?」
いきなり呼び止められて、恐怖に似た声を出す。
「お前、ほんとは試したろ?」
―ドキッ…―
「しっしてねぇよ!」
捕まれた腕を力一杯振りほどく。
(バレてたまるかっ!)
「嘘付け。」
「嘘じゃねぇっ!」
「じゃあ何で若干がに股なわけ?歩き方も不自然だし。」
「それは…」
必死に言い訳を探そうとするが、なかなかいい案が浮かんで来ない。
それに中川にこんなに真っ直ぐ見つめられては、例え浮かんだとしても、すぐ嘘だとバレてしまうだろう。
なかなか言わない雄太にシビレを切らした中川が、呆れた様に言った。
「あのなぁ…コレはお前に与えた仕事であって、俺は別に、好きでお前のオナってるトコ見たい訳じゃねぇんだぜ?」
「わかってるよ!」
‘オナる’という言葉に妙に身体が反応してしまい、それを掻き消す為に雄太は声を張り上げた。
「わかってるけど、いくら仕事だからって俺にもプライドがある!あんな醜態を他人のあんたになんか見られたくないんだよ!!」
雄太の初めての反抗に、中川は驚きもせずじっと雄太を見る。
(何この沈黙?何か言い返してこいよ。調子狂うじゃん…)
「聞いてんのかよ…?」
「あぁ、聞いてる。悪かったな、嫌な思いさせて…」「え…?」
(いきなり何?この空気)
初めて見る中川の悲しそうな表情に、雄太の怒りは一気に冷めた。
「もうこんな事頼まねぇよ。お前は明日から家事だけしてくれればいい。」
「…またジョークですか?」
「いや…」
「でも、中川さん仕事…モデル必要なんじゃ…」
勝手だと思った。
自分が嫌がったくせに、いざとなると心配になる。
「お前が心配する事じゃないから。」
優しいような、でも冷たい言葉を残して中川は自分の部屋に入っていった。
「はい…」
結局この日、中川は一度も口を聞かなかった。
(やっぱ怒ってるよな…)
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