《MUMEI》
終わりの雨の日
ざー、

雨の降る音が、世界を包む。
ペダルをこぐ足が重い。
肩に背負った鞄とギターケースが、ぎしぎしと軋んで音をたてた。
傘なんて全然役にたってない。
濡れた髪が顔に張りついて、視界を遮る。
「……さすがにチャリはキツかったかなぁ……この雨は」
ボヤく。
それでも足は止めず。
自転車のわずかな光を消さないように、ペダルを踏んだ。
もう、辺りは暗い。
申し訳程度に光る街灯は、激しすぎる雨にかき消されていた。
まだ日も沈みきらない時間のはずだが、空は黒い雲が覆っている。
しばらくは雨が止むこともないだろう。
「近道しよ」
呟いてから、いつもは曲がらない角を曲がった。
路地に入ってすぐ、右側が唐突に明るくなり……
甲高いブレーキ音が響いて、世界はまた暗さを取り戻した。

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