《MUMEI》
イフ…
強飛が鬼の形相で睨むと、悪鬼らは土下座した。
「命だけは、命だけは助けてください!」
「ふざけろ!」
強飛が剣を抜いた。皆は腰を抜かして命乞いだ。
「我々は総大将の命令で仕方なく」
「嘘をつけ。最初から全部見てたぞ!」
「強飛」
ライムに呼ばれて、強飛は目を悪鬼らに向けたまま聞いた。
「何だライム?」
「降参している相手を殺すの?」
強飛は悪鬼らに剣の先を向けた。
「ひいいい!」
「自分を辱めようとした貴様らを庇おうとするこの慈悲心。終生忘れないと誓うか?」
「誓います、誓います!」
「ならば初仕事だ。あの者を縛り上げて別室で待機。指示を待て」
「ははっ」
悪鬼らは惨状愚魔を縛り上げると、部屋を出ていった。
強飛がライムを見つめる。
「大丈夫か?」
「ありがとう強飛。助かったわ。どうしようかと思った」
強飛はなぜか腕組みをすると、首をかしげた。
「やはり助けに登場するの、早過ぎたか?」
「え、何で?」
「ライムがあいつらの卑劣な攻めに、どこまで耐えられるか見てみたかった気もする」
「バッ…」
ライムは真っ赤な顔をして怒った。
「バカなこと言ってないで早くほどいて!」
ライムは無事に救出された。
それから数日が経ち、翔が退院した。退院祝いに外食をして少し会話すると、アパートに戻った。
夜。
翔も久しぶりにライムと一緒なので燃えていた。ライムもあのようなことがあってから、心と体の変化に気づいていた。
悪魔の注射よりも精神的なものか。能力が弱い。
翔に腕ずぐで襲われたら危ない。しかし翔は力では勝てないと思っているから、何もしてこない。
今能力がゼロに近いというのは、知られてはまずい。翔ならいきなり悪魔に転向するのは火を見るよりも明らかだ。
「ライム、シャワーどうぞ」
「うん」
ライムは緊張しながらシャワーを浴びた。脱衣所でしっかり体を拭いて、パジャマを上下きちんと着てから部屋に戻った。
「翔君どうぞ」
「かわいい」
翔はライムの腕や肩を触った。レモンイエローのパジャマは目を引く。
翔がシャワーを浴びている間に、ライムは布団を敷いた。
翔が出てくる。
「ライム、いつもありがとう」
「ふふん。翔君優しいね。奥さんにもそう言うんだよ」
「結婚なんかどうでもいい」
四畳半の入口に突っ立ったまま、ライムを見つめる。
ライムは布団に潜り込もうと掛布団を持ち上げた。翔はその瞬間にライムを押し倒した。
「ちょっと待って」
「ライム!」
上に乗られた。ライムは仕方なく下から翔を睨む。
「変なことしたら明日の朝あたしはいないよ」
「ライム。変なことなんかしないよ」
「じゃあどいて」
「ライム」
「どくのが先」
「人の話聞かないなら襲っちゃうよ」
「わかった、やめて」
「かわいい」
翔は熱い眼差しで迫る。
「入院中って結構暇だから、いろいろ考えていたんだ。もしもライムが、人間だったらって」
ライムは深呼吸。翔は豹が小鹿を狙うような体勢で、ライムに迫る。
「ライム。君の決定的瞬間を見たことがない。目の前で消えたりすれば信じるが、君は、ハタチ前後の美少女にしか見えない。もしかして、人間?」
「残念ながら違うわ。あたしは正真正銘の天使よ」
「だから、安心して独身男子のアパートに寝泊まりできるわけか」
「まあ、そうだけど」
ライムが内心慌てるような表情を浮かべたのを、翔は見逃さなかった。
「ちょっと何するの?」
「ライム!」
まずい。興奮している。
「落ち着いて」
「無理だ。もう我慢の限界だ」
パジャマを脱がそうとする。ライムは抵抗した。
「落ち着いて」
「ライム」
苦肉の策。ライムは言った。
「わかった触るだけならいい」
翔の動きが止まった。
「マジか?」
「体が目的ならどうぞ」
ライムは無防備な体勢で両手を枕もとに上げた。
「いいのか?」
「え?」
作戦失敗。
「ダメよ」

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