《MUMEI》
引火
「そうだね。僕は運動神経も悪いし、臆病だ。せっかく大学に受かったと思って家を出たら、このプロジェクト。この町から逃げようとしてこんな物までつけられた」
草野は足を一歩前に出した。
足首には鈍く黒光りする鉄の輪。
「重そうだよね、あれ」
誰にともなくユキナは呟いた。
「でも、僕には君より優れてるところもあるのさ」
ユウゴは問うように片方の眉を動かした。
すると、彼は右手の人差し指をこめかみに当ててみせた。
「僕は、頭がいい。君よりもね」
「なに?」
「言ってはなんだけど、昔の君の成績はひどかったね。いつも、赤点」
「……プ」
ユキナが笑いを堪えつつも吹き出した。
「なんだよ?」
ユウゴはユキナを睨む。
「別に、気にしないで」
ユキナは笑みを浮かべたまま、首を振る。
「……で?頭のいい草野くんは何ができるのかなぁ?」
馬鹿にした口調でユウゴは草野を下から睨み上げた。
「そうだな。例えば、これとか作ってみたんだ」
草野はユウゴの睨みも軽く受け流して、背中の鞄から細長い何かを取り出した。
その先端には細長い紐が付いている。
「あの〜、それってもしかして……?」
ユキナは恐る恐る、聞いた。
「ダイナマイトさ。僕、特製の、ね」
草野はニヤっと笑うとライターを取り出した。
「ま、待て!おまえ、正気かよ?」
「いいや、とっくに狂ってるよ」
ボッと音を立て、火が導火線に引火した。
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