《MUMEI》

老婆はじっと貴士を見据えたまま、その荒れてしわくちゃな口元を小さく動かした。

「…………を…。」

「はぃ?…すみません、もう一度お願い致します。」
ボリュームが小さ過ぎる。
それに、しわ枯れた感じの声色が、更に聞き辛くしているのだ。

貴士が恐る恐る聞き直すと、老婆は更に目を見開いた。
そして次の瞬間


バンッ!!


カウンターを叩きつけるや否や、身を乗り出してきのだ。
「「ぅわッ!!?」」

あまりの異常なその行動に、貴士も横で見ていた山下も後退りする。

今にも腰が抜けそうになりながら、貴士は震える声で言った。

「け‥け‥警察…よ、呼びますよッ!?」

ジーンズに入っていた携帯電話を取り出して、本気である事を証明すると、また老婆が口を開いた。

しわ枯れた声で、たが今度はハッキリと。


「息子を…息子を助けてくれ!!」

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