《MUMEI》

暫しの沈黙が流れる。



*『お前…その声しっかり覚えたぞ…


…絶対に逃さんぞ…


…地の果て迄も追って必ず八ッ裂きにしてやる…』



怒りと悲しみを押し殺した呪いの言葉の後、電話は突然切れた…。



笠松は、得体の知れない寒気を背筋に感じた。



何故か背後に猪俣が居るような気がして、後ろを振り返っても見た。



だが、そこには打ちつける雨に煙る、私鉄沿線の街の風景が広がっているだけだった…。



『…フッ……』



安堵しながらも臆病な生き物は、一刻も早く猪俣の住処から遠ざかりたい衝動に駆られた。

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