《MUMEI》
田辺という男
次の日。
雄太がこのマンションに来て、初めての来客があった。
「初めてまして、田辺です。よろしく!」
男はニッコリ笑うと雄太に挨拶した。
「あ…ども。」
誰なのかと中川の顔を見る。
しかし中川はまるでそれを無視するかのように田辺だけを見て話す。
「いらっしゃい。さっそくだけどお願いできる?」
「はい!」
田辺は元気よく返事をすると、案内されたアトリエに入って行く。
「あ!そうだ林君。」
一緒にアトリエに入ろうとした中川が振り返る。
「え?」
雄太は初めて苗字で呼ばれて、眉を潜めた。
(何で苗字で呼ぶんだよ…)
困惑する雄太とは反対に、中川は冷静沈着。
「後でお茶持ってきて。」それだけ言うとバタンと扉を閉めてしまった。
「あ…はい……。」
(コレってやっぱアレ?嫌がらせってヤツ?)
胸に靄がかかった気がしながらも、言われた通りお茶を持っていった。
「どうぞ…」
「有難うございます!」
そう言って田辺はまたニッコリ笑う。
(胡散臭ぇヤツ。)
雄太は何故かこの田辺という男が気にくわない。
(絶対裏の顔があるタイプだ!)
中川にもお茶を出したが、一切声をかけてくれなかった。それならまだしも、目すら合わせようとしない。
「…失礼します。」
少し凹みながら、雄太はそっと部屋から出ていった。
「なんか苦し…」
パタンッと扉を閉めると一人呟いた。
前へ
|次へ
作品目次へ
ケータイ小説検索へ
新規作家登録へ
便利サイト検索へ
携帯小説の
(C)無銘文庫