《MUMEI》

事件か、それともただ呆けてしまっているだけか?

もし事件ならば一大事だ。

貴士は取り乱す老婆を宥める様、ゆっくりとした口調で聞いてみた。


「息子さん、どうかされたんですか?」


「あの子は…ユウマは囚われとるんじゃ…。」

「まさか誘拐!?」

「違うッ!!」

「ごっごめんなさいッ!」

横から口出しした山下は、老婆にギロリと睨まれ、その一喝で縮こまってしまった。

「ま…まぁ、少し落ち着いてください。
とにかく、誘拐ではないにせよ、僕らでは力になれないと思いますので、一度警察に相談されたほうが…」
「お前は見とるじゃろ…」
「は?」

「悪夢を見とる。」


貴士は氷ついた。


何故知っている?

まだ誰にも話していないのに、何故この老婆はあの夢の事を知っているのか?


「婆さん!なんでそれを…っ!」


聞こうとして邪魔された。

老婆は無言で、新しく入って来た客とすれ違いに出て行ってしまったのだ。


「いらっしゃいませ!」


水を得た魚の様に、急に元気になった山下の声が、妙に遠く感じた。

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