《MUMEI》

「ちょっ……下ろせ」

抱き起こすどころか抱き上げたまま七生は部屋に俺を運び入れた。
干していた布団みたいにベッドの上に放り込まれる……雑だ。


「下ろした。」

俺が軟弱過ぎるからか、あっという間に七生に主導権を握られた。
七生が俺の上に被さるような体勢になっている。


「……そうですね。」

……何故か敬語になってしまった。


「そうですよ。」

敬語返しされた、七生の瞬きが多い……緊張しているのか?


「……怪我してないし、はやとちり。」

肩に触れそうな手を除けて貰おうと叩く。


「そっちこそ、こんな凶器丸出して廊下走ったりなんかして、危なっかしい。」

七生に気を取られて忘れていた、下着は履いてたがシャツ一枚だった。


「キョーキ?」


「これだ、これ!」

逆襲として腿を叩かれた。


「いっ……」

痛い……!


「あっ、ワリ……!」

やっと自分の乱雑さに気付いたようで、赤くなったところを摩る。


「……制服が。」


「ん?」


「ブレザーだ。」

綺麗な若草色の制服だ。
七生をちゃんと見たのはこれが初めてだ。


「ああ、
そうだよ、似合う?」


「似合ってたらどうなの。」


「俺が、喜ぶ。」

七生と、自然に話せてる。最初は手探りで七生という偶像を追っていただけだったのに、俺に積極的に寄ってくる。


「自分中心に世界が回っているとでも?」

自己中なやつ。


「俺と二郎だ。」

変わらない。


「俺が嫌いだからこんなことしたんだろ。」


「二郎に構って欲しいだけだ!」


「やっぱり、意図的にやっていた!」

自らぼろを出した。


「俺、お前が思うより打算的なんだ。」

七生の発する言葉には力が宿っていたがこればかりは信用に欠ける。


「これも計算のうち?」

俺と七生がこうして会ったのも?


「……概ね。」

その単語、使いたかっただけじゃなかろうか。
七生の澄んだ声、会話を重ねる毎に耳の奥が心地良い風に吹かれているみたい。
言おうと思っていた文句や怒りとか全部吹き飛んでしまった。


「乙矢に二郎と会わせて貰うつもりだった。こんな形じゃなくて……ちゃんと話したかったんだけど。」

俺の頬を大きい掌が撫でる。


「でも俺はもうお前の知る俺じゃない。」

俺は七生の知っている俺じゃない。


「……よくわからん。」

七生には難しすぎたらしい。


「とにかく、離れなさい。」

風邪ひく。


「やだ。」


「……は?」


「やあだあ。」

……玉蜀黍を入院中のお母さんに届けたい妹の如くびくともしない。


「いいから退きなさい!殴るか蹴るか殴るよ!」


「二回殴る言った!二郎のヘナチョコパンチなんか避けるからな。」

ヘナチョコ言うな、完全に舐められてる。

前へ |次へ


作品目次へ
感想掲示板へ
携帯小説検索(ランキング)へ
栞の一覧へ
この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです!
新規作家登録する

携帯小説の
無銘文庫