《MUMEI》
一難去って
「いやぁ‥。おっかなかったな〜、さっきの婆さん」
また誰もいなくなった店内に、山下の呑気な声だけが響く。


「マジ、俺殺されるかと思ったもん!!
何だろ?呆けてたのかな‥。」

「…………」

「あ〜、また来たら嫌だなぁ…。
つか、貴士の事ガン見してたな?
もしかして、お前目当ての客だったりして!?」


ケラケラ笑いだす山下を余所に、貴士はずっと一点を見つめたまま、黙り込んでいる。

「何だよ黙り込んで…。冗談だって〜。」

「………」

「貴士?お〜い!タ〜カシく〜ん?」


「へ?何?」

名前を呼ばれてハッとする。
「何って…。どうしたよ?さっきから難しい顔して。」

「あ?そう?元からじゃね?」

「いや、ぜってぇ違うだろっ!」

「てか、俺そろそろ上がりだわ!」


貴士はその場を適当に誤魔化すと、そそくさと店の奥へと去っていった。


後ろで山下が何やらごちゃごちゃ言っていたが、何一つとして貴士の頭に入ってはいなかった。

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