《MUMEI》
ノート
「林檎食べるか?」



「うん、食べようかな」



「よし」




隆志は紙袋から林檎を取りだし、林檎を剥き始めた。






穏やかな日差しが彼を照らしている。





普段あまり包丁を握らない隆志は凄く真剣な表情で剥いている。



この前作ってくれた鍋もこんな感じで用意してくれてたんだろうか?






−−−朝、目が醒めると隆志が俺の傍にいて、俺の手を握っていた。






夜は毎晩どんなに時間が遅くなろうと裕斗が泊まってくれていた。





付き添い用の華奢なソファーベッドを俺の脇に並べて、俺が寝付くまで手を握ってくれていて…。







いや、寝付くのはいつも裕斗が先。


気持ち良さそうな寝息をたてて繋ぐ手の力がゆっくりと緩まる。




小さな証明にうつる、意外と幼い寝顔がなんだかほっとして




無防備な裕斗にホッとしながら俺は眠りについていた。






朝になると仕事の為にいなかったりだけど、それでも昼間に姿を見せてくれて何かしら差し入れてくれる。

そして隆志も仕事の合間をみて俺の傍に居てくれている。







もちろん泊まってくれた日もあった。





先に爆睡する裕斗に二人で爆笑して、その後隆志ももう一台のソファーベッドで眠った。




隆志も手を繋いでくれた。







昨夜は俺が眠った後裕斗と隆志が入れ代わったらしい。





夜中誰もいない時にパニックが起こったらと思うとこの二人の好意を拒む事ができないでいる。






だって俺は一人になるのがとにかく、不安で不安で仕方がないんだ…。







「俺が剥くと身が無くなるな」





芯を取るのにてこずったのか、いびつでぺらぺらな林檎の乗った皿を隆志は俺に渡してきた。





「美味しい…」




「あーなんかいい林檎らしいぞ?平山さんが持ってきてくれたんだ」





隆志は備え付けの洗面台で果物包丁をさっと洗い、紙ナプキンで拭いた。




「今日仕事は?」




「あ〜、今日は夜の11時から…、ラジオの収録やって、その後CMの取りなんだ」



「…そっか…」




「裕斗、8時までには戻ってくるって言ってたから、あいつ来てから俺行くし…、
だから大丈夫だからな?」




「………うん…」





隆志は俺の傍にある椅子に座ると、皿から林檎を摘んだ。




「うん、形わりいけど美味い」




俺に向けて柔らかい表情で微笑む隆志。




胸の奥が…






ズキリと痛んだ。

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