《MUMEI》
大感情
能力が戻ったライムは、早朝、強飛に呼び出しを食らった。
公園へ行くと、ベンチに強飛がすわっていた。ライムは神妙な顔で隣にすわる。
純白のワンピースが眩しく光る。強飛は山賊にしか見えない。変装する気はないようだ。
「イエローカードだ」
強飛が怖い顔で呟いた。ライムは俯いていたが、ジョギングをする人々を目で追うと、軽く伸びをした。
「レッドカードじゃなくて?」
「イエローカードだ」
「イエロー?」
ライムは笑うと、強飛を指差した。
「わかった。強飛、エリカとできちゃったんでしょ?」
強飛は番犬のように唸ると、怒鳴った。百雷が落ちる。
「バカモン、俺のことじゃない、おまえのことだあ!」
「わあ、ごめんなさい!」頭を両手で庇うライム。
「まあ、一線を超えたわけではないしな。手首を縛られて無抵抗だったが、最後まで抵抗していた。イエローカードが妥当だろう」
ライムはかしこまって聞いた。
「快感に負けて、途中で観念して、身を任せたとしたら、レッドカードだ。違うんだろ?」
「違う、違う。必死に抵抗したんだから」
赤面しながら否定するライムに、強飛がさりげなく言う。
「じゃあ悪いのは沢村翔か?」
かしこまっていたライムが、急に怖い顔に変わる。
「彼は関係ない。あたしを人間だと思ってるんだもん。何も悪くないよ」
強飛が黙っていると、ライムは腕を掴んで睨んだ。
「翔に手を出したら強飛でも許さないよ」
強飛はライムを見つめる。
「惚れたか?」
「まさか。あたしはプロフェッショナルよ。誘導尋問はやめなさい!」
強飛は話題を変えた。
「ライム。おまえはともかく、沢村翔は完全にゾッコンLOVEだ。どうする気だ?」
「どうするって…」
ライムは困った顔をして、自分の肩を抱いた。
「人間の特徴は、一人の人を本気で愛してしまうことだ。その大情熱は地球の運行さえも止めそうなほど凄まじい。もうすぐ別れなければならないのに、翔のあの状態ではきついな」
ライムはまたかしこまった。
「どうすればいい?」
「ライムの魅力光線は悪魔さえ惚れさせるほどだからな。敵をも味方に変えてしまう能力の一種だ。しかし今回は裏目に出たか」
「裏目?」
「翔はライムとの別れには耐えられない。どうする?」
責められても困る。
「どうしよう?」
「俺は恋愛感情というのはわからん。任務に支障をきたすだけだからシャットアウトしている。だから小悪魔の色気攻めにも拳で挨拶だ。ガッハッハ!」
「はあ…」
ライムは片手で頭を押さえた。とりあえず強飛に相談しても無意味なのはわかった。
家に戻ると、翔はもう起きていた。真剣な顔でライムに詰め寄る。
「どこ行ってたんだ。朝起きたらいないから、心臓が止まったぞ」
「翔君が約束破ったから、あたしも約束守る必要はなくなったかな。なんて思っちゃって」
ふざけた調子で言ったつもりが、翔にはこたえた。
「ライム。黙って消えられたら、残されたほうは立ち上がれないよ」
「冗談よ冗談」
「ホントに冗談か?」
「まずは布団しまって朝食、トレーニング、仕事」
「まだいてくれるかライム。今のオレはライムがすべてだ。君のことしか考えていない」
ライムは唇を噛んだ。これでは別れを言い出せない。冗談抜きに犯されてしまうかもしれない。
「翔君」
「何?」
「じゃあ約束して。絶対にエッチなことはしないって」
「約束する」
「破ったらさよならだよ」
「ダメだよ」
「ダメだよって、翔君が約束守ればいいのよ」ライムは明るく笑った。
「少し触れるくらいもダメか?」
「じゃあね。あまり窮屈なルールも息が詰まるから、今まで通り普通でいいよ。ただし、あたしがやめてって言ったらすぐにやめて」
「わかったよ」
ライムは身の安全はこれで確保できたと思った。
悲しい別れを希望の約束に変える方法。ないことはない。ライムは知恵が湧いてきた。

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