《MUMEI》
もう一匹
 琥鬼(こき)、風牙(ふうが)、雪兎(せつと)。

 夜桜の兄である陰陽師──彩貴(さいき)が邸に連れ帰り、以来こちらにとどまっている。

 そして──もう一匹。

「──お前は本当に潜るのが好きなんだな──」

 夜桜の懐から、ひょっこりと覗いた金色の眼。

 ふわふわとした毛皮に覆われ、手毬のような見た目をしているが‥‥‥黒い。

「お前もまだ眠くならんようだな──黒手毬」

 手のひらに載せて撫でてやると、その妖はくすぐったげにしながら──眼を三日月形に細めた。

「時に──お前は何の妖なんだ‥?」

 今まで数々の妖を見て来た夜桜だが、彼女は黒手毬のような姿のものを見た事はなかった。

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