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《MUMEI》 二の辻「ねぇ、蒼。アンタさっきから何書いてるの？」 翌日、学校 その日、高岡は全ての授業の最中、それとは全く関係のないモノをノートに書きなぐっていた 此処数日、明らかに様子のおかしい高岡に、見守る友人たちは心配そうな顔で 一心不乱に何を書いているのかを覗き込んでくる 「何これ、落書き？」 紙一面に書きなぐられたソレを見、友人の遠野 由紀は顔を顰める それもその筈 書いている高岡本人さえ何を書いているのか最早解らなくなっていて だが、今の非現実な状況を理解するにはあの地図が必要不可欠の様な気がして 自分の記憶を頼りに、猫に食われてしまったソレを復元しようと試みていたという訳だ 「こんな、感じだったかな」 粗方を書き終えノートを閉じると、帰宅するべく席を立つ ソレを遠野が引き止める 「ね、蒼。帰りにどっか寄って行かない？」 遠野からの提案 高岡は暫し考えるため脚をとめた 出歩いてまたあの十字路に迷い込んでしまったら、という不安が瞬間高岡の脳裏に過ぎり 即答できずにいた高岡の手を遠野は取る 「最近、何か元気ないみたいだし。ね？」 片目を閉じて笑ってくる彼女に、高岡は漸くの笑みを浮かべ その誘いに頷いた 「よし！じゃ出発！」 足取りも軽く歩くことを始めた遠野 その後ろに高岡も続き、到着したのはショッピングモール 平日だというのにソコは人のにぎわいが溢れていて その多さに、高岡は入口で立ち尽くしてしまった 「すっごい人」 思わず口に出せば、横の遠野から笑う声が聞こえる 「蒼、迷子になんてならないでよ。なっても私探さないからね」 揶揄う様な物言いに、高岡は迷子になどならない、と頬を膨らませ そしてすぐ後に遠野と顔を見合わせ笑いあった 穏やかな空間、そして日常 ソレが今はとても大切に感じる そんな事を考えてしまうのは、自身の周りで起こっている不可思議な出来事の所為で もう何も起こってくれるなと心中で願う 様々な事を考えながら歩いて暫く後 不意に高岡は服の裾を引かれ脚を止めた 何かと向いて直れば、そこには一人の少年が立っていて 泣きそうな顔で服の膝を握りしめていた 「どうか、したの？」 膝を折り、その少年に目線を合わせてやりながら問う事をしてやれば 涙の滲む声で、迷子になってしまったのだとの返答 泣いてしまうばかりの子供をあやしてやっていた高岡 その眼の前に、不意に銀の糸がちらつく 幻でも見ているのか、と眼を擦ってみれば、その通りだったのかその糸は消え 未だ泣きじゃくる少年の声に割れへと帰った 「大丈夫、大丈夫だよ。キミのお母さんはきっとすぐに君を見つけてくれる」 少年の髪を柔らかく梳いてやりながら穏やかに高岡の声は語る その直後のことだった 少年の母親らしき女性が大慌てで姿を現したのは 高岡へと何度も礼を言うと、少年の手を取り人混みの中へと紛れていく その繋いだ手の互いの小指に、高岡は細く光る銀糸を見た 「……糸？」 ソレを見、一体何なのかと小首を傾げ見れば 肩を軽く叩かれ、遠野がどうかしたのかを問うてきた 高岡は首を横に振って見せながら、何でもないと一言でまた歩き始める 「……ね、蒼。顔色悪いよ」 先行く高岡の腕を遠野は取り、顔を覗き込んでくる 余りの顔色の悪さに高岡の手を取ると、近くあった喫茶店へ 出されたお冷を一口、ホッと胸を撫で下ろした 「それで、何があったの？最近、様子変だし」 グラスの縁を指でなぞりながらの徐な問いに 即答など出来る訳もなく口を噤む 言った処で信じてもらえる筈などない だが、心配してくれる友人にこれ以上隠す事など出来ず 高岡は一部始終は話す事を始めた 四辻・朱の群れ・あの少年 全てを話し終えると、高岡は顔を伏せ自身の膝ばかりを眺め見る おかしな奴だと思われたかもしれない、と途端に恥ずかしさが増す 「恐い思い、したんだ。アンタ恐がりだから、泣いたりしなかった？」 だが返ってきたのは意外な言葉 高岡を労ってくれる微笑を含んだ声だった 前へ |次へ |
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