《MUMEI》 約束ライムはいろいろ考えた。そして決めた。 昼。 食事を済ませると朗報が届く。編集部からだ。沢村翔原作の『天使の剣』もコミック化されることが決まった。 「絵は波形先生?」ライムが輝く笑顔で聞く。 「もちろん」 「やったね」 「全部ライムのおかげだよ」 「よく言うよ」 この良き知らせを受け、ライムは決断できた。 「翔君」 「何?」 「お話があります」 翔の顔が曇る。まさか天国から地獄か。 ライムはかしこまってすわり直すと、熱い眼差しで翔を見つめた。 「翔君。一時お別れしなければならないの」 翔は体が震えた。 「ライム」 「仕事に全神経を傾けて」 ライムは立ち上がる。翔は驚いて聞いた。 「まさか。今すぐ?」 翔はライムを直視しながら、ゆっくり立ち上がった。 「今、すぐ?」 「ええ」 足がすくんだ。恐怖。翔は本気で戦慄した。 「明日の朝じゃダメなのか?」 「こういう話をしたあとに、一夜を過ごすのは、ちょっと」 「指一本触れない」 ライムは落ち着きを失った翔の手を取る。 「翔君。永遠の別れじゃないのよ。また来るから」 「本当か?」 「信じて」 二人は見つめ合う。 「じゃあ、さよならは言わない。すぐ会いたいよ、ライム」 ライムは無言。本当は永遠の別れではないのか。翔は胸の鼓動が激しく高鳴った。 「ライム。オレからは会いに行けないんだから、しょっちゅう会いに来てくれないと、心が破裂するよ」 ライムは寂しい表情を浮かべた。 「翔君。もしも、あたしがいないからって、仕事が手につかないとか、そんな状態だったら、幻滅だよ」 「幻滅とか言うなよ」 「もしも翔君が、一人でも強く生きていたら。仕事に情熱を燃やしていたら。本物の戦士として、会いに来たくなると思う」 「マジか?」 「本当よ」 一筋の光明。 「ライム。約束だよ」 「わかってる。必ず会いに来るから、それまでは仕事に集中して」 ライムは玄関ではなく、なぜか窓際に立った。 「翔君。またね。お元気で」 「ライム」 翔は彼女のすべてを目に焼き付けた。 「抱きしめていいか?」 「翔」 ライムは微笑むと、両手を広げた。翔はライムを強く抱きしめた。 「ライム」 「翔」 「だれにも渡したくない」 翔は声を震わせた。 「ライム。本音を言えば、結婚したい」 ライムは瞳を閉じる。翔の腰に手を回した。力が入る。 「翔君…」 いつまでも、こうしてはいられない。翔は、ライムを離した。 「ライム。夢でもいいから会いに来て」 ライムはキュートなスマイルを向ける。 「夢ならいつでも来れるよ」 「待ってる」 永遠の別れではない。翔はそれを信じるしかなかった。 「ライム。千年後とかはなしだぞ」 「ハハハ。大丈夫よ」 ライムは輝くような笑顔で翔を見ると、そのままレインボーの光に包まれた。 翔は目を丸くして不思議な光景を凝視した。 そのうち、自然にライムの姿は薄くなり、やがて消えた。 「……ライム」 ライムはわざと、自分が人間ではないことを、翔に見せたかったのだろうか。 翔にとっては、もはや人間か天使かは、迷う材料にはならないところまで来ていた。 ただ、ただライムが好き。ライムがもしも悪魔なら、ともに地獄へ行くだろう。 「ライム」 翔は静かにデスクに向かった。ライムとすぐに再会したいから、仕事に没頭した。 その頃。 惨状軍は強飛に壊滅させられたため、オールダイパンは作戦を変えた。 城には小悪魔のエリカが呼ばれていた。オールダイパンが来るまで土下座して待つ。 太鼓の音が聞こえた。エリカは緊張していた。真っ赤な水着に真っ赤なドレス。長い髪がよく似合うセクシーガール。 オールダイパンが登場。堂々たる歩み。いつもの顔ぶれだが、無限煙愚魔と他化愚魔が渋い顔をして両側に正座した。 「一同の者。おもてを上げんしゃい」 「はっ!」 エリカはゆっくり顔を上げた。 前へ |次へ |
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