《MUMEI》
陽桜
 夜桜には、普段冷静沈着な彩貴が何故こんなにも動揺しているのかが分からない。

(‥‥‥どうしたというんだ‥?)

 ‥あの、桜の紋。

(‥奏美‥‥‥この名は確か‥彼女の通り名だと狐叉が言っていたな‥‥‥)

「──姫様」

「‥?」

「私は‥これで──」

「奏美」

「‥姫様‥?」

 少し怯えたような素振りを見せ、立ち止まった奏美に、夜桜が歩み寄る。

「教えてはくれまいか。お前の‥‥‥本当の名を」

「‥‥‥それは‥‥‥」

「‥何故か‥お前が他人とは思えんのだ」

「‥‥‥‥‥‥‥」

 奏美は俯き、唇を噛み、堅く両手を握っていた。

「──‥陽桜」

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