《MUMEI》
最後の戦い
早朝。
橋の上を散歩する生まれ変わった天使。
エリカは水色のワンピースで清楚に決めていた。
橋の中央。川を見つめる女の子。高校生くらいだろうか。
「ん?」
様子が変だと思い、エリカが近づいていった。
「あっ」
女の子はエリカの顔を見ると、いきなり柵を超えた。
「ダメよ!」
彼女は川に飛び込んだ。エリカは周囲を見る。だれも見ていないことを確認すると、柵に飛び乗り、川へ飛び込む。空中でワンピースが消えた。ブルーの水着が眩しく光る。
ドボーン!
女の子は頭から深く沈んでいく。エリカは必死に追った。
(初仕事だ。死なせてなるものか!)
しかし変ではないか。人間はこんなに沈むものか。そう思った瞬間、墨がたちこめて女の子の姿が見えなくなった。
「!」
その墨からオクトパエスが現れた。
(しまった罠だ!)
エリカは生きた心地がしない。オクトパエスが来る。何とか泳ぎきって水から顔を上げたが、すぐに両足を引っ張られた。
(まずい!)
オクトパエスは容赦なく手足をぐるぐる巻きにすると、エリカを逆さまにした。
苦しい。水中ではかなわない。
(やめて!)
エリカはもがいた。オクトパエスはテレパシーで語りかける。
(裏切り者には死あるのみ。エリカ。かわいそうだが、おまえはここで終わりだ)
(やだ、絶対やだ!)
苦しい。エリカは哀願する相手を間違えていると思った。
(強飛、助けて、見捨てないで)
(ハハハ。強飛はおまえなんか助けないよ)
エリカは全宇宙に向かって懺悔するように、心の底から叫んだ。
(これからはまじめにやりますから、チャンスをください!)
(バカだなエリカ。だれも助けてはくれねえよ)
ドボーン!
「わあ!」
強飛が飛び込んだと思って、オクトパエスはエリカから離れた。しかし泡から姿を見せたのは純白の水着を着た天使だった。
「ライム?」
光。
まずい。天使の剣を持っている。頭をスパッと斬られた。
「ぎゃあああああ!」
黒い血が噴き出る。
「おのれライム。恩を仇で返しやがって。覚えてろ!」
オクトパエスは退散した。二人は水から顔を出す。
「ライム」
「大丈夫?」
エリカは安心したのか、気を失ってしまった。
ライムはエリカを川岸まで運ぶと、寝かせた。そして、自分も上がろうと思った瞬間に両足を引っ張られた。
(しまった!)
オクトパエスは怒り心頭。ライムを強引に川の底まで連れて行くと、手足をぐるぐる巻きにしたまま仰向けに寝かせた。
水中では根性も意地もない。ライムは弱気な顔でもがいた。
(ライム。今度だけは許さないぞ)
(んんん!)
ライムは暴れた。
(許す理由が見つからない。さあどうするライム?)
ライムはひたすらもがいた。限界だ。オクトパエスは酸素マスクを出さない代わりに、丸いバリアで自分とライムを包んだ。
陸のように息が吸える。ライムはオクトパエスを睨んだ。
「ライム。やってくれたな」
「エリカを助けるためだ」
「体張り過ぎだぞライム。だからいつも危ない目に遭う」
「仲間を見殺しにはできない」
球のバリア。しかし外は水中。これでは逆らえない。
「オクトパエス。あたしをどうするつもりだ?」
「ライム。助けてあげたいが、今回はオールダイパン様直々の暗殺命令だ。それを阻止したおまえは、生け捕りにして連行するしかないな」
ライムは唇を噛んだ。連行されたら終わりだ。悪鬼どもにメチャクチャにされてしまう。
「ライム。逃がせば俺が反逆罪だ。さてどうする?」
ライムは警戒した。オクトパエスの目が淫らで危ない。
「ライム。一つだけ助かる方法がある。それは俺の家族になることだ」
「家族?」
「そうだ。俺が今までおまえを助けてあげたのも、惚れたからよ」
ライムは横を向く。狭いバリアで二人きり。身の危険を感じた。
「ライムと俺が家族になる方法は、結婚しかないだろ」
大ピンチだ。

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