《MUMEI》 愛は会社を救う(82)丸亀は、以前にもやっていたように、自分の机の上や袖机を探って、続けざまにファイルを広げていた。 顔面は強張り、首筋にまで汗が滲んでいる。 腰を屈めてファイルを繰るそのグループリーダーの傍らに、私はそっと近付いた。 「お探しなのは、この資料ではないですか」 突然、鼻先に突き付けられた角2封筒。 それを見た丸亀は、ぎょっとした表情を浮かべ、身を硬くした。 封筒を差し出した人物は誰なのか…。それを確認すべく、ゆっくりと視線を上げていく。 その先には、まだ配属されて日の浅い派遣社員の顔があった。 「…こ、これは」 丸亀の視線は、無意識のうちに山下仁美のデスクに向かう。 だがその席の主は、今日は間違いなく休暇を取っている。電話を受けたのも丸亀自身だ。 「あ、これ、これかもしれないですね…」 震える手で、封筒を受け取る。 狼狽しながらも、必死に取り繕おうとしているのが、私には手に取るようにわかった。 「出過ぎた真似をいたしました」 私はにっこりと微笑んで頭を下げると、呆然とする丸亀に背を向けて、資料室へと去って行った。 前へ |次へ |
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