《MUMEI》

「……おしまい。」


「――――――鬼ィ!やだ、それ!」

これからだったのに。


「さて、シャワー入ろ。」

一人でさっさとゴムを外して行ってしまった。馬鹿国雄……!
一回で我慢出来るか……!
それとも、あれか、下半身がシニアになってきているとか……そしたら普通に下、伏せてるよな。
……てことは、風呂場で……!


「……シャワー入れて!」

急いで後を追う。
しまった、鍵掛けられている!


「扉壊れるから止めろ!」


「じゃあ、せめてその手の中の一口チョーダイ!」

味わえてないし、こんな備蓄じゃ充電し足りない。

国雄は意地が悪い。
暫く放置されて、腰にタオルを巻いた国雄が現れる。




「……光君、国雄お兄さんとのお約束守れるかな。
一つ、知らない人についていかない。
一つ、次に会うときまでちゃんとするのは我慢する、抜け出したりしないこと。
一つ、……俺の下着盗まないこと!数が合わないはずだ!」

俺の鞄から国雄パンツを奪還された。


「あっ泥棒!」

俺の数少ない充電機が奪われてしまった!


「お前がな!」

国雄にゲンコツされる。


「頭の形悪くなる……。」

降ってきた激痛を触って確かめた。


「手癖の悪いお坊ちゃまですこと……」

深い溜息をされた。
パンツの一枚や二枚や三枚や四枚や五枚くらいいじゃないか。


「本当ならこんな布キレじゃなくて本物を持って行きたかった。」

国雄を持って行きたい。


「今からホームシックか?」


「そんな可愛いものじゃないっ……国雄がもっと、もっと、欲しい……毎日逢いたいし、内心は仕事だって煩わしい。でも国雄が好きなのは仕事をしている俺なんだよね?」

だから、この仕事が続けられる。


「……辞めたいの?」


「ごめん……今の禁句だった。」

自分でも勝手に口が動いたような感覚だ。


「いや、いいよ。むしろ、光に負担だったのなら悪い事してたな?
光は何をしても俺の光だから……ただ、光があまりにもテレビで眩しかったから、調子に乗っていたんだよな。
皆の高遠光は俺の高遠光なんだって……優越感に浸っていた。自分で気付いてないけど、お前は愛される才能があるの、だからそれに気付いて欲しい。きっかけになればいいと思っただけだから、苦しいなら光は辞めていいんだ。」

どうして、腰にタオル巻いている人間なのに、国雄はこんなに恰好良いんだろうか。


「俺……余裕無くて自分のことばっかりで、……仕事は疲れるし面倒に感じる……けど、嫌いになれない。
そうだ、俺は沢山の人達に今まで支えられてきていた、応えようと努力だってしていたのにいつの間にかそれを当たり前のように感じて、自惚れてた。」

沢山の出会いが俺に刺激を与えてくれて、沢山の声が俺を呼んでくれたから今の俺がいるのに。


「仕事と光は俺なんかよりずっと付き合いも長い、それに横槍を入れるみたいに乱入してしまった。
俺は仕事に嫉妬してるよ?お前達が凄く良い関係だから。だから、普段は全力で俺が夢中にしている。」


「仕事の次に……大好きです。」

世界中探してもこんな良い男見付からない。
涙ぐんできた。


「俺が光くらいの時、俺は酷い餓鬼だった。
光はねぇ、俺が持っていないものが沢山あるから、出来ないこともしたかったことも吸収して欲しい。」

国雄みたいに俺を後悔させたくないのだ。


「なんだ、国雄も俺が欲しかったんじゃん……俺は国雄が背中を押してくれるから何処にでも行ける気がする……空だって飛べちゃうよ?
俺が飛んだら国雄の手を掴んでいてあげる。」

そしたら二人、何処へだって行ける。


「……歌い出すのかと思った。」

笑いを堪えている。


「結構イイコト言ったつもりだったのに。」

笑われてしまった。


「いや、今のでオトされたよ?」

そう言いながら微笑む国雄にオトされそうだ。

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