《MUMEI》
バイク
(ん?)


アパートの駐輪場に、見た事の無いバイクがとまっていた。


(…隣の部屋の知り合いかな?)


隣の部屋の大学生は、最近就職活動の為に実家によく帰るらしく留守にする事が多かったが、帰ってくると相変わらず宴会をしていた。


俺は、その見慣れぬバイクを大学生の知り合いの物だと思った。


そして、自分の部屋の前に来ると、見知った後輩が俺を待っていた。


(あれ? 俺、住所教えたっけ)


「松木」


首を傾げながらも、俺は後輩の名前を呼んだ。


「おかえりなさい。…これ」


そう言って、松木が俺の前に出したは、演劇部の部長に読めと言われていた童話だった。


「もしかして、部長に頼まれたのか?」


松木は無言で首を横に振った。


(じゃあ、何でだ?)


俺は、首を傾げながら松木を見た。


「…昨日、図書当番。たまたま、見かけた」

「あ、おい!」


松木は俺に本を押し付けると、走っていった。


(何だ? あいつ)


唖然とする俺の耳に、バイクのエンジン音が聞こえた。

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