《MUMEI》
戦場
「なんでこんなことに」
彼は呟いた。

腹を押さえた手は真っ赤に染まっている。
つい数十分前までごく平凡で常識的な日常を送っていたのに。

そうだ、そもそもの原因はこれだ。

彼は目の前に落ちている一枚の紙に目を落とした。
所々血に染まり、土に汚れ、破れかけている。
宝くじという文字もその番号もほとんどわからない。
 彼は周りを見渡した。幾人もの人間が転がり、ピクリとも動かない。
アスファルトの上では血溜まりができている。

彼はつい数十分前、この宝くじを道で拾い、試しに銀行へ持って行った。するとなんと、一等が当たっているという。
自分の幸運に踊りだしたくなる気持ちを押さえながら彼は、行員に促されるままに車に乗った。

どこに連れていかれるのか聞かされないまま、車内で彼はおもむろに小さなケースを渡された。

小切手でも入っているのかとケースを開けようとすると、行員に止められた。

「車から降りるまでは開けないでください」

少し怪訝に思いながらも、自分が当選者であることを疑いもしなかった。
 そして着いた先で車を降りると、そこは『戦場』だった。
「…なんだよ、これは?」
目の前に転がっているのは間違いなく人間。

 呆然としていると、後ろで車が遠ざかる音が聞こえた。
「ちょっ…!!待てよ!何なんだよ一体!?」
しかし、車は物凄いスピードで走り去っていく。
取り残されたその場ではスーツを着ている者、Tシャツの者、年齢も性別も様々な連中が、皆、手にナイフを持ち、尋常じゃない様子でお互いを攻撃している。
「お前ら何なんだよ!」
彼が叫ぶとその声に反応したのか、近くにいた40代くらいの破れたスーツを着た男が振り返った。
「あんた新入りか?」
不自然な笑みを浮かべながら男は言った。
その手も服もベットリと赤く染まっている。

彼が警戒しながら頷くと男は「そうか」と嬉しそうに言いながら近寄って来た。
「それじゃあ、何もわからんだろう。俺が教えてやるよ」
男はナイフを彼に向けながら「お前は、ここで、死ぬんだよ」とそのまま突っ込んで来た。

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