《MUMEI》

猪俣は傍らの椅子に腰掛け、老人の顔を覗き込みながら談笑に耽っている…。



『…最近、一家の奴らは見舞いに来んのぉ…


…シノギが捗っとるようじゃの…?…。』



鼻穴から酸素吸入を受け、全身を管で繋がれた老人が、かすれた声で猪俣に語りかけた。




老人の名は"柳沢雨慈吉"…



末期癌に冒された、鶴見一家の親分だった。



痛み止めの効果も相まってか、柳沢は虚な表情で猪俣とも容易に視線が合わなかった。




『そうですね…賭場も盛況でしてね…。(笑)』



猪俣は嘘をついた。



もはや見舞いに来る筈の一家の連中がこの世に居ないことを、柳沢の忌の際まで隠すつもりだった。

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