《MUMEI》

腕には七生に掴まれた痕、首筋には痴漢のキスマークが付いていた。


「不潔……」

自分の体を鏡越しに罵った。
着替えを済まして来た道に戻ろうとしていたら、瞳子さんと七生を見付けてしまった。
思わず隠れてしまった。


「大変、瞼の周りが腫れてしまってます。」

俺が蹴った場所を瞳子さんは心配している。
申し訳ない気持ちになってきた。


「その辺すっ転んだだけだから。」

蹴られたことは当然内緒だ。


「いいえ、それなら私の家に責任があります。よく、見せてくださいな。病院に参りましょう。」

そんなに酷いのかと思わず物影から身を乗り出してしまう。




残念ながら七生は後頭部しか見えず……瞳子さんの七生にキスしている瞬間しか拝めなかった。

大胆だな瞳子さん……そりゃあキスくらいするだろう婚約者なんだもの。

それじゃあ七生にとって俺って何?
脳内で弾き出されるのは決して良い結果ばかりでは無い。

瞳子さんが慌ただしく走り去って行く。

「二郎さんっ……。」

顔を真っ赤にした瞳子さんが一瞬、振り向いて俺を捉えてどこかの扉へ隠れていった。


「乙矢……。」

口に出すと落ち着く言葉だ。


「見てたのか、二郎……。」

七生に気付かれた。俺って間が悪い。


「見てない……」

乙矢乙矢乙矢乙矢乙矢……


「じゃあ、キスさせて」

じゃあってなんだ?!


「おとや!」

数秒前まで瞳子さんとしていたくせに!


「何で乙矢の名前が出て来るんだよ!お前、まさかエロ乙矢になんかされたんじゃ……?!」

それお前だろ!


「……誰がエロだ馬鹿。」

七生が吹っ飛んだ。


「おおおおおぉ……」

言葉にならない、乙矢が七生から引き離してくれた。


「馬鹿には任せられないな。神部一人しか客人がいないのは不自然だ。珍しい晩餐を頂いてさっさと帰ろうか。」

乙矢に連れられて神部達の部屋に戻る。

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