《MUMEI》
4
「お前…」
「なんすか」

「節操なしだったよな」
「節操なしって…」

まだ数年の付き合いだが、頼蔵のスカスカな軽さには閉口していた。来る者拒まずとはこのことだ。女はもとより、それが男であっても。

「間違っても、ミトさんに手を出すなんてことは…」

言いかけて、頼蔵のばつの悪そうな表情に気が付いた。
ニーナの顔が青くなる。

「アハ」

「頼蔵…」
「はい」
「……寝たのか」

「はい」


暗転。

「据え膳食わぬはなんとやらって言うじゃないですか。勿論同意の上ですよ」

据え膳って。
同意ってなんだ。

あまりに衝撃的な事実に、ニーナは呼吸すら忘れた。怒りというか後悔というか、もやっとした気持ちが広がっていく。

呆然と天井を眺める。
なんて忍だ。主が寝込んでいる最中に、嫁候補と夜を過ごすとは。監督不行き届きとでもいうのか。


「何たること…」

「いやー、すいません。若様がそんなにショック受けるとは…ショックついでにもうひとついいすか」

ニーナは力無く頷いた。
もう何でもいい。部下と想い人が寝てたんだ。これ以上驚くことがあるか。
しかしそれは、またもニーナの心を粉砕するものであった。


「ミトさん、今朝出立されました」

「は?」

「何でも、雇い主からお呼びがかかったそうで。若様寝てらしたんで、この頼蔵が若様の分もお礼申し上げて、見送りました。急で申し訳ないって謝ってましたよ」

「はーーー?!」


後に新那は人生を振り返り、この日が一番口惜しかったと述べた。

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