《MUMEI》
ナイフ
突然のことに彼は動くこともできず、腹部に鈍い衝撃を受けた。
「なっ。…の野郎!!」
彼は男を突き飛ばすと、そのまま勢いに任せて力いっぱい蹴り上げた。
男が衝撃で後ろに倒れ込むと、その近くにいた他の連中が群がるように男を刺しに行った。
叫びとも悲鳴ともつかない気味の悪い声を上げ、スーツの男は動きを止めた。
 さらにその連中はゆっくりとした動きで彼の方を向くと、皆一様に、ニヤッと笑った。
「おい、クソ!マジかよ。てめえらこっち来んじゃねぇよ!」
彼は怒鳴りながら、その場から逃げ出そうとした。
しかし、逃げるような場所がない。
 改めて周りを見渡してみるとそこは、周りを高い壁に囲まれた、だだっ広い駐車場のような場所だった。 
隠れる場所も何もない。
さっき車が出入りした場所もいつの間にか塞がれている。
そこにあるのは幾つもの死体と狂気した人達のみ。
 彼はとにかく目立たない場所へ逃げようと、腹を押さえながら壁側へと移動した。

彼が壁にもたれながら座り込むと、パーカーのポケットから宝くじがヒラヒラと落ちてきた。

それはさっき刺されたときにかすったのか、すでにボロボロになっていた。
「なんでこんなことに」
彼は呟いた。

 刺された腹がズクズク痛む。
こうしている間にも、辺りには動かない人間が増えていく。
彼はふと、車内で渡された小さなケースのことを思い出した。

 宝くじが入っていたのと逆のポケットからそれを取り出すと、蓋を開けてみた。

中には銀色に輝く、折りたたみナイフが一本。
彼はそれを取り出して刃を出してみた。
すると、他の連中が持っているものと同じであると分かった。

ほかに何か入っていないかと、ケースをひっくり返して振ってみると一枚のメモ用紙が落ちてきた。

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