《MUMEI》
エンドレス
ライムは迷った。どうにもならない。このまま攻められたらアウトだ。謝ってしまおうか。
「オクトパエス。一旦待ちなさい!」
「そんな態度ならこうだぞ」
「あああ!」
ライムは必死にもがいた。悪魔の高度な秘技か。急に力が抜けた。
(何これ、あん、悔しい…無念)
力が入らない。なすがままだ。
「さあライム、どうする?」
ライムは弱気な表情でされるがまま。今度こそ悪魔の軍門に降るか。
パン!
いきなりバリアが破れた。
「ん?」
オクトパエスは驚きの表情で水中を見る。
「エリカ?」
怖い顔をしたエリカが弓矢を構えている。
「まずい、天使の弓矢!」
オクトパエスはライムを放して逃げようとしたが、矢が飛ぶほうが速かった。
「ぎゃあああああ!」
今がチャンス!
ライムが怒り心頭。天使の剣を出した。
「待ってくれライム!」
ライムは剣を振り下ろしたが、脚をかすった。
エリカとライムは急いで泳ぎ、水から顔を出す。エリカがなじった。
「何やってんのライム。何でトドメ刺さなかったの!」
すると、オクトパエスも上がって来た。エリカは弓矢を、ライムは剣を構える。
「ライム。借りができたな」
「チャラだ」ライムが睨む。
「チャラ?」
「あたしを殺そうと思えば殺せた」
「手加減したのがバレたか?」
ライムは答えない。二人は油断はしなかった。
「惚れた弱味だ。おまえを殺せるわけないだろ」
「じゃあ、あなたも守護神に転向しなさい」
「柄じゃねえ。俺は悪魔が性に合ってる。また戦場で会うこともあるだろう。悪魔と天使の戦いはエンドレス。永遠に続くのだ」
「あたしが終わらせるわ」
ライムが言ったあと、エリカも続いた。
「あたしが終わらせる」
オクトパエスは笑った。
「さすがは天使。言うことがいちいちカッコイイぞ。それではさらばだ!」
オクトパエスは水中に消えた。
「ライム、大丈夫?」
エリカに言われ、ライムは照れた。
「ありがとうエリカ。助かったわ」
その頃、沢村翔は、小公園のベンチの前にいた。
彼はベンチを見つめながら、あの日のことを思い起こしていた。
…ライム。君と初めて出会ったのは、この場所だった。
もしも、ライムと出会わなければ、今のオレはない。だから、君に対して、感謝しかない。ありがとう、ライム…。
翔は、ゆっくりベンチにすわると、目を閉じた。
…あのとき、横を向いたら、君がいた。天使だと思った。本当に天使だったんだな…。
翔は、横を向いた。
「……」
音も気配もなかったはずなのに、純白の衣装に身を包んだ、可憐な美少女が、文庫本を読んでいる。
幻か。
翔は目をこすった。もう一度見る。やはりそこに、天使はいた。
「ライム?」
彼女はにっこり微笑むと、本を閉じて、輝くような笑顔を翔に向けた。
「来ちゃった」
「ライム…」
翔は感激に身を震わせながらも、さりげなく言った。
「会いたかったよ」
「あたしも」
「嘘でも嬉しいよライム」
「嘘じゃないよ」
翔は優しく手を差し出した。
「ライム」
「ふふん」
二人は手を繋いだ。
「オレがどんなに感動しているかは、言わなくてもわかるな」
「変わってないね、翔君」
「成長ないんだ」
「そういう意味じゃないよ」
翔は、ライムの華奢な体を抱き寄せた。
「ライム。ありがとう。君は本当に優しいよ」
「天使だもん」



END

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