《MUMEI》
タツヤ
落とされた荷物には食料が入っていたらしく、次々と人が群がっていく。それはまさに略奪のようだった。

あっという間に食料は無くなり、それぞれが一人で静かに食べ始めた。
喋っている者は一人もいない。
完全に出遅れてしまった彼は、目の前に倒れている女から少し離れた場所に座り込んだ。
その途端、さっきまで忘れていた腹の傷の痛みを思い出した。

「痛ぇな」
彼はそっと血に汚れたシャツをめくり、傷口を見た。
思ったほどひどくはなさそうだ。
血が盛り上がって、すでに固まっている。
しかし、少し動くとズキズキと痛む。
とにかく応急手当しなければ。

彼は何か腹に巻くものがないかとポケットを探したが何も出てこない。
消毒しようにも水もない。
どうしたもんかと考えていると、目の前に「ほら」と布が差し出された。
ビクッとして反射的に横へ転がると、傷が恐ろしく痛んだ。
地面に傷を打ち付けてしまったらしい。

「何やってんだよ。だいじょぶか?ほら」
そう言って手を差し延べて来たのは、20代前半の男だった。
「ま、警戒すんのも分かるけど、俺はここの連中と違って正気だぜ?ほら」
男は倒れた彼を起こすと横に座った。

「とりあえずこれ巻いとけよ。ああ、なんなら水もあるぜ?大丈夫。毒なんか入ってねぇから」


それでも彼は男のことを警戒し、睨みつける。
「おいおい。こえーな。あんた、新人だろ?それにしちゃ、けっこう冷静だよな。あんたなら俺の仲間に大歓迎さ」
「仲間?」
「そ。あんた、ここに来てからそのナイフで誰か殺したか?」
彼は首を振った。
「だろ?でもこうやって生き延びてる。そういう奴って結構めずらしいんだ。たいてい、ここに来たばっかの奴は訳がわからないまま真っ先に殺されるか、喚きながら相手を殺すかのどっちかだ。
たまに見込みのある奴は状況を冷静に見極めて考えて生き残る。
俺や、あんたみたいにな。
だから、あんたは俺の仲間に相応しい。
あ、俺はタツヤね。よろしく」
タツヤはそう言って布と水を差し出した。

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