《MUMEI》
十億円
それでも彼が受けとろうとしないのをみて、タツヤは「めんどくせーな」と服の上から水をかけた。
「いって…!!何すんだよ!」
「消毒だろ?どれ?」
タツヤは彼の服をつかむとめくり上げた。
「おぉ。痛そうだな。よし、動くなよ」
そう言うとタツヤは手に持っていた布を彼の腹に巻き付け、きつく縛り上げた。
「痛いって、言ってんだろーが!」
彼は思い切りタツヤを突き飛ばした。
タツヤは尻餅をつきながら「おいおい。行動には気をつけたほうがいいぜ?」とニヤッと笑った。
そして服を叩きながら立ち上がると再び彼の横に座った。
「さっきのアナウンス聞いてたか?この時間に誰かを攻撃したら強制排除されちゃうぜ」
「強制排除?」
「つーまーり、殺されちゃうわけだ。強制的にな」
「ここの奴らにか?」
彼は周りを見渡した。
相変わらず一人一人が無心に食事している。
「いや、外の奴らにさ。手に銃持った黒ずくめの連中が突然入って来て、ターゲットを囲み、一斉に……バン」
タツヤは彼の顔に向かって指で撃つ真似をした。
「外の連中って誰だ?
そもそもこれはどういうことなんだよ?」
「そんなの知らねぇよ。俺は道で拾った宝くじを銀行に持ってったらここに連れてこられただけだ。
ったく、一等だって言われたのによ。どこに賞金あるんだってーの」
タツヤは大袈裟に溜め息をついてみせた。
「俺と同じだ。俺も宝くじ拾って…」
「あん?ああ。多分、ここの連中、全員そうなんじゃねえの?ほら、ナイフの入ってたケースに紙が入ってたろ?
一等を勝ち取れってな。
それで、誰が言い出したのか最後まで生き延びた奴が、賞金をもらえるんだってさ。
それも三億どころかなんとびっくり十億円」
「マジで?」
「さあな。そんな根拠どこにもないけど。
ま、わからないことだらけさ」
タツヤは肩をすくめた。
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