《MUMEI》
タツヤとレイカ 1
タツヤがここに連れてこられたのが一週間前。
ここの様子は今とは少し違っていたそうだ。

全員がナイフを片手に尋常ではない様子で攻撃していたのは今と変わりないが、問題はその相手。
ここにいた全員が、たった一人を取り囲んでいたのだった。

その取り囲まれていた一人というのが、レイカだった。
もちろんその時のタツヤはレイカのことなど知る由もなかったが。

 何がなんだかわからないまま、手元の箱からナイフを見つけたタツヤはそれを手に持ち、とりあえず様子を窺いながら、何故こんな状況になっているのか理解しようとした。
と、その時、一人の男が奇声を上げてレイカに襲い掛かった。それを合図にしたかのように他の者も一斉に襲い掛かる。

 思わず何故かその輪の中に入ってしまったタツヤ。
その時、タツヤが見た光景は凄まじいものだった。
 取り囲まれていたはずのレイカはいつの間にか輪の外で、ナイフを見事に操りながら手当たり次第に周りの人間を倒していった。

顔に血が飛んでも眉一つ動かさない。
その素早く正確な動きにタツヤは周りの状況を忘れて圧倒されてしまったほどだ。
 一方、レイカに襲い掛かった連中はさっきまで彼女がいた場所を一生懸命ナイフで刺し、同士討ちとなっている。
 我に返ったタツヤは、なんとかレイカの近くまで移動し、彼女に加勢しようと身構えた。

状況はよくわからないが、女の子一人 対 危ない目をした大勢ならやはり、いくら強いとはいえ女の子を助けるのが男として当然だろう。

「大丈夫か!」と聞こうとした時、音もなく彼女は振り向いた。
そして、止める間もなくナイフを振り下ろす。
「うぉい!ちょっと待てぃ!」
叫びながら危機一髪避けたタツヤは、早口で「俺は味方だ!」と言った。
 それでもレイカは動きを止めず全くの無表情でいつの間にか手に入れていた、もう一本のナイフでタツヤを突く。
「みかたみかたみかた!」
避けられないと悟ったタツヤは目を閉じ、無我夢中で『みかた』の三文字を連発する。
その甲斐があったのか、レイカはギリギリで手を止めた。
「味方?」
静かな言葉に、そぅっと片目を開けると、すぐ前にナイフの先が光っている。
 真っ青になりながらタツヤは思わず後ずさる。
するとそこには充血した目の男がよだれを垂らして立っていた。
慌ててナイフを向けようとするが体勢が悪く、うっかり落としてしまった。

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