《MUMEI》 愛は会社を救う(83)会社から歩いて十数分の距離に、城址公園がある。 見事な石垣と白壁の土塀。風情ある佇まいに、いにしえの面影が偲ばれる。 この街のランドマークだ。 日本庭園を模した園内には、大きな池を中心に松や自然石が配され、市街地の喧騒が信じられないほど、枯れた味わいの空間を作り出している。 陽が長くなり、夕方といっても辺りは十分に明るかった。 園内を散策する観光客の姿もまだ、まばらに見受けられる。 定時で退社した丸亀と私は、肩を並べて公園の玉砂利の上を歩いていた。 「あそこに、座りましょうか」 穏やかな口調で言いながら、丸亀が木製のベンチを指差す。 少し距離を開け、私は彼に続いて、その右側に腰を下ろした。 丸亀が、さっき売店で買った缶ビールのプルタブを起こす。 プシュッと涼やかな音を立てて、流れ出た少量の泡が丸亀の左手を伝った。 前へ |次へ |
作品目次へ 感想掲示板へ 携帯小説検索(ランキング)へ 栞の一覧へ この小説は無銘文庫を利用して執筆されています。無銘文庫は誰でも作家になれる無料の携帯・スマートフォン小説サイトです! 新規作家登録する 無銘文庫 |