《MUMEI》
疑問
しばらくして、辺りに一際大きな叫び声が響いた。
ビクッとしてそちらに顔を向けると、白髪混じりの男が尻餅をつき、叫びながらナイフを振り回していた。
その前に立っているのは、レイカだ。
彼女は尻餅をついたまま後ずさる男に、容赦なくナイフを振り下ろした。
男はビクッと体を震わせて仰向けに倒れて動かなくなった。
「うわっ!」
その様子に思わず声を上げる。

 タツヤが言っていた派手だからというのはこういうことか。

レイカは動かなくなった男を無表情に見下ろすと、そのままどこへともなく歩いて行ってしまった。
彼は今更ながらに思った。
今まで普通に暮らしてた人間が、あんなに簡単に人を殺せるわけない。
しかも殺したあとだというのに、あんなに無表情に落ち着き払っているなんて、彼にはとてもできない。

彼女は何者なのだろう?
普通でないことは確かだ。
それとも、ここにずっといるとああなってしまうのだろうか。
普通に見えて、実はここにいる他の連中と同じようにどこかが壊れてしまったのだろうか。
自分もいずれそうなるのだろうか。
タツヤはどうなんだろう。
「なあ、ちょっと聞きたいんだけど……」
 彼が聞きかけたとき、二人の前に男が立っていることに気付いた。

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