《MUMEI》
開く壁
早くここから出たいという彼らの願い虚しく、それから二日間、車は来なかった。
「今日も来ないのかねぇ」
のんびりした口調でタツヤはパンを口に運んだ。
時刻は昼。

毎日、何体もの死体が運び出されるが、人数がほとんど減っていない気がするのは何故だろう。

彼は時間と共に、冷静に状況を考えている自分に気がついていた。

すでに夜の配給でも出遅れることなく、相手を押しのけ自分の食料を確保できるようになっていた。
腹の傷も痛まなくなってきた。

彼はタツヤと同じようにパンを噛りながら壁を見つめた。
「そろそろ来そうじゃない?」
いつの間に近くに来たのか、レイカが言う。
このレイカのいきなりな登場の仕方にもすっかり慣れてしまった。
「そうだな。こいつが来てから何日か経ったし、今日辺りに来そうだよな」
タツヤは頷いた。
「そんじゃ、今日は三人固まってたほうがいいな。お前、勝手にどっか行くなよ?」
彼はレイカに言うと、彼女は息を吐くように冷たく笑った。
「あんたに言われなくてもわかってる」
「なんっか言い方がムカツク」
しかし、それを無視してレイカは二人から少し離れた場所で壁に寄り掛かった。
「なあ、あいつさ、変だよな?」
彼はレイカに聞こえないように小声で言った。
「まあ、そこら辺の女より変わってるよな。っても、こんなとこに入れられてキャピキャピされても、そっちのが変に思えるよな」
「……確かに。じゃあ、ここではああいうのがむしろ普通なのか」
「さあなぁ。ま、いいじゃん、別に。とにかく脱出が先決。それ以外は気にすんな」
タツヤは残りのパンを全部口に放り入れ、パンパンと手を叩いた。

その日の夕方。

おそらく終了のサイレンが鳴り響く少し前。

ついに、壁がゆっくり開きだした。

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